身寄りのない高齢者の支援が国の事業に|2026年法改正のポイントと、施設入居で困る「保証人」への備え
親の入院が決まり、病院の窓口で「身元保証人の欄をお願いします」と言われて、頼める人が思い浮かばずに手が止まる方は少なくありません。親族が少ない、兄弟が遠方に住んでいる、親しい友人も高齢で頼みにくい。こうした状況は、いま特別なことではなくなっています。
この記事では、厚生労働省が「身寄りのない高齢者」と呼ぶ状態を整理したうえで、2026年(令和8年)の法改正で支援が国の事業に位置づけられたポイントと、施設入居で困りやすい「保証人」への向き合い方をまとめました。
この記事でわかること
- 身寄りのない高齢者が日常生活で困りやすい場面
- 2026年の法改正で国の事業に位置づけられた支援の中身
- 身元保証人がいないときの施設入居の考え方
- 保証人の役割を補う制度・サービスと相談先
身寄りのない高齢者とはどんな状態か、何に困るのか
「身寄りがない」という言葉は、親族がまったくいない場合だけを指すわけではありません。まずどのような状態を指すのかを確認し、日常生活で起こりやすい行き詰まりを見ていきます。
「身寄りのない高齢者」とはどんな状態を指すのか
厚生労働省が2025年(令和7年)3月にまとめた資料では、身寄りがない状態を、親族がいない場合だけでなく、保証人や緊急連絡先となる親族等がいない場合、連絡がつきにくい場合、連絡はつくものの入院時などに駆けつけられない場合、支援を期待できない・拒んでいる場合も含めて捉えています。
戸籍のうえでは親族がいる方でも、実際に手続きや緊急時の対応を頼める人がいなければ、支援が必要な状態として考えられています。「親族がいるかどうか」ではなく「いざというときに頼れる人がいるかどうか」で捉えるのが、支援を考える出発点なのです。
日常生活で困りやすい4つの場面
頼れる身寄りがいないと、「緊急連絡先がなくて入院などの手続きが進められない」、「医療費や施設利用料の支払いが難しい」、「亡くなったあとの手続きを行う人がいない」、「空き家や家財の処分ができない」、という4つの場面で行きづまりが生じやすいと整理されています。
これらは、これまで家族や親族が当たり前に担ってきた役割です。頼める人がいなければ、本人が入院中や体調の悪いなかで手続きを進めることになり、行き詰まってしまいます。
2026年の法改正で支援が国の事業に
こうした課題に対応するため、2026年(令和8年)6月25日に公布された社会福祉法等の一部を改正する法律(令和8年法律第51号)で、身寄りのない高齢者等への支援が国の制度に位置づけられました。
改正の柱は、日常生活支援、入院・入所の手続支援、死後事務支援などを、利用者のうち一定割合以上に無料または低額で提供する事業を第二種社会福祉事業として位置づけることです。個々の自治体や民間サービスの努力に委ねられていた領域が、国の制度のなかに組み込まれた点がこの改正のポイントです。
施行時期と、いま利用できる支援
施行日は内容によって分かれています。支援事業に関する規定は公布後2年以内に政令で定める日、相談支援体制などに関する規定は2027年(令和9年)4月1日とされました。
2026年9月の時点で新しい支援が全国一斉に始まっているわけではなく、体制の整備状況は自治体によって差があります。日常生活自立支援事業のように以前から使える仕組みや、市区町村独自の支援もあります。「いつから、どの支援が使えるか」は自治体ごとに違うため、市区町村の高齢福祉担当課か地域包括支援センターに確認しておきましょう。
国の事業として位置づけられた支援の中身
改正で想定されている支援は、日常生活の支援、入院・入所の手続支援、死後の事務支援の3つに整理できます。それぞれの内容を見ていきます。
日常生活支援と金銭管理
日常生活支援は、日常生活自立支援事業で行われてきた福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理、通帳や書類の預かりを引き継ぐものです。年金の受け取りや公共料金・施設利用料の支払いなどを、本人に代わって行うのではなく、本人が自分でできるよう援助する形が基本になります。
判断能力の低下が進むと、預貯金の出し入れや契約の判断を自分で行うのが難しくなる場面が出てきます。この事業は本人が契約内容を判断できることが前提のため、判断が難しくなった場合には成年後見制度の検討に移ることになります。
入院・入所の手続支援
入院や施設入所のときには、緊急連絡先の届け出、同意書の記入、費用の支払いなど、家族が担ってきた手続きがまとめて発生します。改正で想定されているのは、こうした手続きの支援、緊急連絡先の提供、費用の支払いの代行です。
救急搬送されたとき、本人が意思表示できないと、誰が何を決めるのかが問題になります。日ごろから主治医や通院先、ケアマネジャー、地域包括支援センターと連絡がとれる状態をつくっておくと、入院の場面で手が止まりにくくなります。
死後事務支援
亡くなったあとの手続きも、頼れる人がいないと進みません。死後事務支援には、葬儀や納骨、家財処分の契約手続き、行政への届出などが含まれます。
身元保証人がいたとしても、死後の対応まで当然に担ってもらえるとは限りません。葬儀や納骨、遺品の扱いまで含めて誰に頼むのかを、元気なうちに決めておくことが、残された人の負担を大きく左右します。
相談できる窓口と連携の仕組み
改正では、身寄りのない高齢者等からの相談対応を、高齢者分野では地域包括支援センターの総合相談支援事業、生活困窮分野では生活困窮者自立相談支援事業、障害福祉分野では障害者相談支援事業の対象とすることが明確になりました。
新しい相談窓口ができるのを待つ必要はなく、まずはお住まいの地域包括支援センターに相談するのが現実的です。改正で想定されている支援は次のとおりです。
| 支援の種類 | 想定されている内容 |
|---|---|
| 日常生活支援 | 福祉サービスの利用援助、日常的な金銭管理、通帳や書類の預かり |
| 入院・入所等の手続支援 | 入院・入所の手続きの支援、緊急連絡先の提供、費用の支払いの代行など |
| 死後事務支援 | 葬儀や納骨、家財処分の契約手続き、行政への届出など |
利用料は、資力の要件に該当する方には無料または低額で提供することが前提です。金額や減免の条件は事業者や自治体によって異なるため、相談のときに確認しておきましょう。
施設入居で困る「保証人」の問題
身寄りのない高齢者の施設入居で、もっとも相談が多いのが身元保証人の問題です。施設の種類によって考え方が変わるため、分けて整理します。
施設が身元保証人に求めている役割
施設が身元保証人や身元引受人に求めてきた役割は、ひとつではありません。緊急時の連絡先、利用料の滞納時の支払い、入院や退所のときの手続き、医療や介護に関する同意、遺体や遺留品の引き取りなど、性格の異なる役割がまとめて「保証人」に寄せられてきました。
厚生労働省の資料でも、これらを一人の保証人に一括して求めるのではなく、役割ごとに分けて、本人・施設・公的制度・地域の支援者で分担できないかを検討することが重要とされています。「保証人がいない」と諦める前に、施設が本当に必要としている役割はどれかを確認するのが出発点です。
介護保険施設は保証人がいないことを理由に入所を断れない
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院といった介護保険施設には、法令上、身元保証人等を求める規定がありません。身元保証人等がいないことだけを理由に、入所を拒否したり退所を求めたりすることは不適切な取扱いとされています。
ただし、施設が滞納時の支払いや緊急時の連絡先を確認したいという事情は残ります。役割ごとに代替の方法を提示して相談するのが現実的です。断られた場合は、市区町村の介護保険担当課、地域包括支援センター、都道府県の介護保険指導担当部署に相談できます。
有料老人ホーム・サ高住は契約によって扱いが異なる
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅は、介護保険施設と違い、入居契約にもとづく「住まい」です。身元引受人を置くことを原則としているホームは多いものの、条件や代替の可否はホームごとに異なり、親族に限らず友人や知人を認めるホーム、高齢者等終身サポート事業者などの利用で対応するホームもあります。
見学や入居相談のときに「身元引受人がいない場合の代替方法」を先に確認しておくと、契約の直前に慌てずに済みます。2026年の法改正では、中重度の要介護者などを入居対象とする有料老人ホームに都道府県知事の登録制が導入され、入居者への相談支援も新設されます。
成年後見人は身元保証人にはなれない
判断能力が十分でない方について、家族が成年後見制度の利用を考えることがあります。ここで誤解されやすいのが、成年後見人は本人の身元保証人や連帯保証人にはなれないという点です。
成年後見人は、本人に代わって施設の入居契約を結び、本人の財産から利用料を支払うことはできますが、自分自身が本人の債務を保証する立場ではありません。「成年後見人がいれば保証人の問題も解決する」わけではなく、契約の代理と保証は別の問題として考える必要があります。
「保証人」への備えとして使える制度とサービス
保証人がいないことを前提に、役割ごとに組み合わせて使える仕組みを整理します。以前から利用できるものと、改正で拡充されるものがあります。
日常生活自立支援事業
日常生活自立支援事業は、判断能力が不十分な方のうち、契約内容を判断できる方を対象に、社会福祉協議会が福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理、通帳や書類の預かりを行う事業です。施設入所中でも利用できるとされており、施設利用料の支払いや通帳の管理を任せたいときの選択肢になります。
実施主体は都道府県社会福祉協議会または指定都市社会福祉協議会で、相談窓口は市区町村の社会福祉協議会などに置かれています。利用料は訪問1回あたり平均1,200円とされ、契約前の初期相談等の経費と生活保護受給世帯の利用料は無料です。
高齢者等終身サポート事業者を利用するときの確認点
民間の高齢者等終身サポート事業者は、身元保証、日常生活の支援、入院・入所の手続き、葬儀や死後事務などを引き受けるサービスです。関係省庁が連名で作成した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」が2024年(令和6年)6月に公表されました。
ただし、事業者によってサービスに含まれる範囲や料金体系、解約条件が異なります。国民生活センターも、契約内容を理解しないまま契約しないよう注意を呼びかけています。契約前に、サービスに含まれる範囲、支払総額と月額・都度費用の内訳、解約の条件と返金額、医療や介護の意思決定を誰が担うかは確認しておきましょう。
成年後見制度と市町村長申立て
契約内容を判断するのが難しくなってきた場合は、成年後見制度の利用を検討します。成年後見人は、施設への入居契約や介護サービスの契約を本人に代わって行い、財産を管理します。申立てを頼める人がいない場合は、市区町村長が家庭裁判所に申立てを行う市町村長申立ての仕組みがあります。
申立ての手数料や成年後見人の報酬は、自治体の成年後見制度利用支援事業で助成される場合があります。対象や上限は自治体ごとに異なるため、市区町村の担当課に確認しましょう。なお、成年後見制度は2026年の民法改正で見直される予定ですが、施行は公布の日から2年6か月を超えない範囲で政令が定める日とされ、しばらくは現在の仕組みが続きます。
今から準備しておきたいこと
必要なときに慌てないためにも、頼れる人の候補を、親族に限らず友人や近隣の人、以前お世話になったケアマネジャーまで含めて書き出しておきましょう。
| 施設が求める役割 | 補える主な仕組み |
|---|---|
| 緊急時の連絡先 | 地域包括支援センター、ケアマネジャー、親族以外の支援者 |
| 利用料の支払い・滞納時の対応 | 日常生活自立支援事業(金銭管理)、高齢者等終身サポート事業者との契約 |
| 入院・入所の契約や手続き | 成年後見制度(入居契約の代理)、日常生活自立支援事業(手続きの援助) |
| 退去時の荷物、死亡時の遺体・遺留品の引き取り | 高齢者等終身サポート事業者との契約、市区町村の相談窓口・埋葬関係部署 |
あわせて、入院や手術、延命治療についての考え、葬儀や納骨の希望、遺品の扱いも、元気なうちに本人へ聞いておきましょう。本人の意思を確認できなくなってからでは聞けなくなります。早い段階で本人と話し合っておくことが、いちばんの備えです。
よくある質問
Q. 身寄りがないと、老人ホームには入れないのでしょうか?
A. 特別養護老人ホームや介護老人保健施設などの介護保険施設では、身元保証人等がいないことだけを理由に入所を拒否することは不適切な取扱いとされています。有料老人ホームやサ高住は契約にもとづくため扱いはホームごとに異なり、代替の方法を確認したうえで相談することになります。
Q. 「身元保証人」と「身元引受人」はどう違うのですか?
A. 呼び方は施設によって異なり、有料老人ホームでは身元引受人と呼ばれることが多いものの、契約書に書かれた役割は施設ごとに違います。緊急連絡、利用料の支払い、退去時の荷物の引き取り、死亡時の対応など、どこまでを求めるのかを契約前に確認しましょう。
Q. 2026年の法改正で、支援はもう受けられますか?
A. 相談支援体制に関する規定の施行は2027年4月1日、支援事業に関する規定は公布後2年以内に政令で定める日とされ、使える時期や内容は自治体によって差があります。日常生活自立支援事業など以前からある仕組みは今も利用できます。
まとめ
身寄りのない高齢者という状態は、親族がいるかどうかだけで決まるものではなく、緊急時や手続きの場面で頼れる人がいるかどうかで捉えるのが実際的です。2026年6月に公布された社会福祉法等の改正で、日常生活支援、入院・入所等の手続支援、死後事務支援が第二種社会福祉事業として位置づけられました。
施設入居の場面では、介護保険施設は身元保証人がいないことだけを理由に入所を断れないこと、有料老人ホームやサ高住は契約によって扱いが異なること、成年後見人は身元保証人にはなれないことを押さえておきましょう。まずは地域包括支援センターに相談し、日常生活自立支援事業や高齢者等終身サポート事業者を役割ごとに組み合わせていくのが現実的です。
この記事のまとめ
- 身寄りがない状態は親族がいない場合だけでなく頼れる人がいない場合も含む
- 2026年の改正で日常生活支援・入院入所手続支援・死後事務支援が国の事業に
- 介護保険施設は身元保証人がいないことだけを理由に入所を断れない
- 成年後見人は入居契約は代理できるが身元保証人にはなれない