血管性認知症とは?原因・症状と日常生活を支えるケアのポイント
脳梗塞や脳出血で入院し、退院してから「以前より段取りが悪くなった」「怒りっぽくなった」「話がかみ合わなくなった」と感じるご家族は少なくありません。体の麻痺は目に見えても、認知機能の変化は気づかれにくく、年のせいだと思われてしまいます。血管性認知症は、こうした脳卒中のあとに起こる認知症です。
この記事では、血管性認知症がどんな仕組みで起こるのか、現れやすい症状の特徴、進行を防ぐために続けたいこと、そして日常生活を支える具体的なケアのポイントをまとめました。
この記事でわかること
- 血管性認知症の原因と、まだら認知症と呼ばれる理由
- 注意力・段取り・感情の変化など現れやすい症状
- 脳卒中の再発を防ぐために続けたいことと受診の目安
- 日常生活を支えるケアと使えるサービス
血管性認知症とはどんな病気か
血管性認知症は、脳の血管が詰まったり破れたりして、その先の脳の組織が損傷することで起こる認知症です。脳卒中をきっかけに起こる点が、アルツハイマー型認知症との大きな違いです。
脳梗塞や脳出血による脳の損傷が原因
原因になるのは、脳梗塞、脳出血、小さな脳梗塞や微小出血の積み重ね、脳の細い血管の病変などです。損傷の大きさだけでなく、どの部位がどれだけ損傷したかによって症状が決まります。小さな病変でも、記憶や言語、段取りを担う部位に生じれば、日常生活に大きな影響が出ます。
血管性認知症では、新たな脳血管障害が起こるたびに症状が一段ずつ進むことがあります。そのため、治療の中心は認知症そのものより、脳卒中を繰り返さないことに置かれます。
認知症全体の約2割を占める
国内で報告されている認知症の原因疾患別の割合は、アルツハイマー型認知症が67.6%、血管性認知症が19.5%、レビー小体型認知症または認知症を伴ったパーキンソン病が4.3%です。血管性認知症は、アルツハイマー型に次いで多いタイプです。
年齢が高くなるほど脳卒中のリスクは上がるため、血管性認知症も高齢者に多い病気です。若年性認知症の原因疾患別でも血管性認知症は17.1%と報告されており、現役世代でも起こり得ます。
「まだら認知症」と呼ばれる理由
血管性認知症は、症状の現れ方から「まだら認知症」と呼ばれることがあります。脳の損傷を受けた部位が一様ではないため、保たれている能力と低下している能力に差が出ることを表した呼び方です。正式な病名ではなく、状態を説明するための言葉です。
たとえば、最近の出来事は覚えていられないのに、昔の仕事の知識は詳しく話せる、会話は問題なくできるのに、計画を立てて段取りよく進めることができない、といった偏りが生じます。できない部分だけを見て「何も分からなくなった」と捉えると、本人が保っている力を活かせなくなります。できていることに目を向けることが、その後のケアの出発点になります。
アルツハイマー型認知症との違い
血管性認知症は、脳卒中をきっかけに急に現れること、階段状に進むこと、注意力や段取りの障害が目立つことで、アルツハイマー型認知症と異なります。ただし、高齢者では両方が併存する混合型も少なくありません。実際の診断では、どちらか一方と決めずに、画像所見と症状の経過をあわせて判断します。
| 項目 | 血管性認知症 | アルツハイマー型認知症 |
|---|---|---|
| 発症のしかた | 脳卒中後に急に現れることがある | 徐々に始まることが多い |
| 症状の進み方 | 階段状に悪化することがある | 比較的なだらかに進むことが多い |
| 目立ちやすい障害 | 注意力、判断力、段取り、処理の速さ | 新しい出来事の記憶 |
| 体の症状 | 麻痺、歩行障害、言葉の障害などを伴うことがある | 初期には目立ちにくい |
| 能力の偏り | まだらになりやすい | 全体的に低下することが多い |
診断では、認知機能の低下があること、MRIやCTで脳血管障害が確認できること、両者の関連が説明できること、日常生活に支障が出ていること、そして他の原因ではないことを確認します。アルツハイマー型認知症では、記憶障害が目立つ例も多く、症状だけでは区別しきれません。
現れやすい症状
血管性認知症の症状は、脳のどの部位が損傷したかによって変わります。ここでは、比較的多くみられる現れ方を整理します。
注意力と段取りの力が低下する
もっとも目立ちやすいのが、注意力や処理の速さの低下、計画を立てて順序よく進める力(遂行機能)の低下です。買い物の段取りが立てられない、複数の用事を同時に進められない、料理の手順が分からなくなる、金銭管理が難しくなるといった形で現れます。
会話は成り立つのに、日常生活の段取りが崩れるという特徴があるため、周囲からは「やる気がない」「面倒になった」と見られがちです。声をかけるときは、一度に複数のことを頼まず、手順を一つずつ示すほうが伝わります。
身体の症状は脳の損傷部位によって変わる
血管性認知症では、認知機能だけでなく、体の症状を伴います。片側の手足の麻痺やしびれ、歩行のふらつき、ろれつの回りにくさ、飲み込みにくさ、排尿・排便のコントロールの難しさなどです。
これらの症状は、脳卒中が起きた部位によって現れ方が変わります。麻痺がある場合は転倒の危険が高まるため、移動や移乗の介助方法を理学療法士や作業療法士に実際の家のなかで確認しておくと良いでしょう。。
感情のコントロールが難しくなる
血管性認知症では、感情失禁と呼ばれる状態がみられます。少しの感情の動きで急に泣き出したり、笑いが止まらなくなったり、怒りが出たりする状態です。脳の損傷により、感情を抑える働きが影響を受けているために起こります。
本人の気持ちと表情や涙が一致しているとは限らず、泣いていても悲しいとは限りません。「泣かないで」と抑え込むより、「つらかったですね」「少し休みましょう」と落ち着いて声をかけ、その場を静かな場所に移すほうが、収まりやすくなります。意欲が低下して、何をするにもおっくうに見えることもあります。
経過は階段状に進むことがある
血管性認知症は、ゆるやかに進むというより、脳卒中のたびに一段下がるように進むことがあります。しばらく状態が変わらない時期が続き、次に脳血管障害が起きたときにまた低下するという経過です。
このため、状態が安定している時期の生活の組み立てが重要になります。できることを維持し、生活の流れを整えておくことが、次の変化が起きたときの備えになります。
進行を防ぐために続けたいこと
血管性認知症は、脳卒中を繰り返さないことが症状の進行を抑えることにつながります。治療と生活習慣の両面で、続けられることを見つけていくことが大切です。
脳卒中の再発予防と生活習慣病の管理
再発予防の中心は、血管の危険因子を継続して管理することです。高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などの不整脈、慢性腎臓病、喫煙、過度の飲酒、肥満、運動不足が主な対象になります。服薬は自己判断で中断せず、血圧や血糖値の記録を主治医に見せながら調整しましょう。
生活面では、減塩、禁煙、節酒、適正体重の維持、ウォーキングなどの軽い有酸素運動、野菜や果物を取り入れた食事が挙げられています。年1回の健診を受けて、数値の変化を把握しておくことも再発予防につながります。介護する側が食事の準備や通院の同行を担う場合は、負担が一人に集中しないよう、家族のなかで役割を分けておきましょう。
リハビリテーションを続ける意味
血管性認知症では、麻痺や歩行障害、言葉の障害、飲み込みの障害に対して、リハビリテーションが行われます。目的は、「歩けるようになる」ことだけではありません。トイレまで安全に移動する、家のなかで転ばずに歩く、ベッドから車椅子へ安全に移る、片手で着替える、食事と会話をしやすくする、家族が安全に介助できるようになる、といった生活の具体的な場面を目標にします。
急性期と回復期は医療機関で、在宅での生活が始まってからは、介護保険の訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションが選択肢になります。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が自宅や通所先で訓練を行います。状態が落ち着いてからも、体を動かさない期間が長引くと筋力や関節の動きが低下するため、状態に応じて続けることが勧められています。
急な変化は脳卒中のサインかもしれない
血管性認知症の人が急に様子を変えたときは、認知症が進んだと考える前に、新しい脳卒中が起きていないかを疑う必要があります。次のような症状が突然現れた場合は、救急要請の対象です。
| 現れる症状 | 確認すること |
|---|---|
| 顔や手足の麻痺 | 顔の片側が下がる、片方の腕や脚に力が入らない・しびれる |
| 言葉の障害 | 急にろれつが回らない、言葉が出ない、相手の言葉が理解できない |
| 歩行の異常 | 急に立てない、歩けない、体が片側に傾く、ふらつく |
| 視力の変化 | 急に見えにくい、視野の一部が見えない |
| 強い頭痛・意識の変化 | 経験したことのない激しい頭痛、急な意識の低下 |
これらの症状が急に現れたときは、様子を見ずに、ためらわず救急車を呼ぶことが原則です。脳卒中の治療は、症状が出てからの時間が短いほど選択肢が広がります。発症した時刻をメモしておくと、医療機関での判断に役立ちます。
日常生活を支えるケアのポイント
血管性認知症のケアでは、失われた部分を補うことより、保たれている力を活かして生活の流れを整えることが中心になります。症状の偏りに合わせた関わり方を紹介します。
保たれている力を活かす
まだらに障害が現れるということは、できている部分が残っているということでもあります。昔から慣れている作業、得意だった家事、趣味の時間は、たとえ効率が悪くても、そのまま任せるようにします。手順が複雑な作業は、工程を分けて一つずつ依頼すると、本人が取り組みやすくなります。
本人の前で症状や失敗を話題にしないことも大切です。言葉が理解しにくい状態でも、周囲の会話が伝わっていることがあります。本人には分からないと思って話すのではなく、本人がいる場での言い方に気を配りましょう。
転倒を防ぐ暮らしの工夫
片麻痺や歩行のふらつきがある場合は、転倒のリスクが高くなります。立ち上がり、方向転換、トイレへの移動の場面では急がせず、杖や歩行器、手すりを、理学療法士や作業療法士の評価を受けて選びます。手すりの設置や段差の解消は、介護保険の住宅改修の対象になる場合があります。
転倒したときは、痛みがなくても頭部を打っている可能性や骨折がないかを確認してください。転倒を繰り返す場合は、歩行能力だけでなく、薬の影響、血圧、視力、排尿、床や照明の状態も合わせて確認することが必要です。夜間のトイレ移動が多い場合は、照明やポータブルトイレの配置も見直します。
感情の高ぶりへの落ち着いた声かけ
急に泣き出したり怒り出したりしたときは、その感情を止めようとせず、まず安全な場所に移り、落ち着いた声で短く声をかけます。話題を変える、飲み物を勧めるなど、自然に気持ちが切り替わるきっかけをつくる方法も有効です。
人前で起きたときに、その場で説明しようとしたり、本人を笑ったりすると、さらに混乱させてしまいます。起こった場面、時間帯、きっかけを記録しておき、頻度や程度が急に強くなったときは主治医に相談してください。
食事・水分・排泄・服薬の支え方
飲み込みにくさがある場合は、むせが誤嚥性肺炎につながることがあります。食事のときは姿勢を整え、ゆっくり食べるよう声をかけ、飲み物のとろみや食事の形態を、医師や言語聴覚士、管理栄養士と相談して調整します。水分はのどが渇く前に少量ずつとる習慣をつくります。
排尿のトラブルがある場合は、トイレの間隔を記録し、間に合うタイミングで声をかけるようにします。服薬する薬には、血圧の薬など脳卒中の再発予防に関わるものが含まれるため、自己判断でやめないことが重要です。飲み忘れがある場合は、お薬カレンダーや一包化、訪問看護による確認など、仕組みでカバーする方法を主治医や薬剤師に相談してください。
排泄や服薬の管理は、記録を取ることで見えてくることが多くあります。負担が集中しないよう、訪問介護や訪問看護を早めに組み合わせましょう。
相談先と介護保険サービス
体の症状と認知機能の変化の両方を診る必要があるため、主治医に加えて、脳神経内科や脳神経外科、リハビリテーション科が相談先になります。急な変化は救急要請、日々の変化はかかりつけ医という使い分けを、ご家族のなかで共有しておきましょう。
生活の支援は、市区町村の介護保険窓口や地域包括支援センターに相談し、要介護認定を受けたうえで、ケアマネジャーとケアプランを組み立てます。訪問介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、通所介護、通所リハビリテーション、短期入所、福祉用具貸与、住宅改修などが候補になります。症状に偏りがあることを伝え、できることを残す方針でプランを考えてもらうと、生活の組み立てがしやすくなります。
よくある質問
Q. 血管性認知症は、必ず進行してしまうのですか?
A. 血管性認知症は脳卒中のたびに階段状に進むことがありますが、新たな脳卒中を防ぐことで状態が安定する期間を長く保てます。高血圧や糖尿病、脂質異常症、心房細動などの管理と、服薬の継続が中心になります。
Q. まだら認知症と血管性認知症は同じものですか?
A. まだら認知症は正式な病名ではなく、脳の損傷部位が一様でないために、保たれている能力と低下している能力に差が出る状態を説明する呼び方です。血管性認知症でよくみられますが、診断名としては、血管性認知症やアルツハイマー型認知症などの病名が使われます。
Q. 感情の起伏が急に激しくなったときは、どうすればよいですか?
A. 脳の新しい損傷や体調の変化、薬の影響が隠れている可能性があるため、まず主治医に相談してください。その場では、感情を抑え込まず、静かな場所へ移って落ち着いた声で短く声をかける対応が勧められます。
まとめ
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって脳が損傷し、認知機能の低下と日常生活への支障が生じた状態です。認知症全体の約2割を占め、アルツハイマー型に次いで多いタイプになります。脳の損傷部位が一様でないため、保たれている能力と低下している能力に差が出る「まだら認知症」の状態になりやすく、注意力や段取りを立てる力の低下、感情失禁、麻痺や歩行障害などが現れます。脳卒中のたびに階段状に進むことがあるため、再発を防ぐことが進行を抑えることにつながります。
日々の暮らしでは、できていることを活かす関わり方、転倒を防ぐ環境づくり、感情の高ぶりへの落ち着いた声かけ、食事・水分・排泄・服薬の支えが中心になります。急に麻痺や言葉の障害が現れたときは、認知症の進行と考えず、ためらわず救急要請をしてください。再発予防は主治医と、生活の組み立ては地域包括支援センターやケアマネジャーと相談しながら、訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションも取り入れていきましょう。
この記事のまとめ
- 血管性認知症は脳梗塞や脳出血による脳の損傷が原因で、認知症全体の約2割を占める
- 損傷部位が一様でないため、保たれている力と低下した力に差が出る「まだら」な状態になりやすい
- 脳卒中の再発予防(血圧・血糖・脂質・心房細動の管理と生活習慣の見直し)が進行を抑える
- 急な麻痺・ろれつの障害・歩行異常は、ためらわず救急要請する