ユマニチュードとは?4つの柱と認知症の人への関わり方を解説

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認知症の親の着替えや入浴を手伝おうとすると、腕を強くつかんでしまったり、「じっとしていてください」と声を張り上げてしまったりする。介助する側は一生懸命なのに、本人が怒り出したり、口をきかなくなったりして、どう関わればよいのか分からなくなるご家族は少なくありません。

この記事では、フランスで生まれたケア技法であるユマニチュードについて、4つの柱の内容と、家庭でも取り入れられる具体的な関わり方、期待できることと限界を整理します。

この記事でわかること

  • ユマニチュードが生まれた背景と基本的な考え方
  • 「見る・話す・触れる・立つ」4つの柱の内容
  • 家庭の介護で取り入れられる具体的な工夫
  • 期待できることと、この技法の限界

ユマニチュードとはどんなケアか

ユマニチュードは、認知症の人への関わり方を体系的にまとめたケアの技法です。まず、どこで生まれ、何を目指しているのかを確認します。

フランスで生まれたケア技法

ユマニチュードは、フランスの体育学の専門家であるイヴ・ジネスト氏と、ロゼット・マレスコッティ氏が開発したケアの技法です。もともと二人は、病院職員の腰痛を防ぐための指導者として病院に関わるなかで、介助される人の状態に目を向けるようになったとされています。

現場で「何でもやってあげている」介助に疑問を持ち、本人がもっている能力をできるだけ活かすことが健康の維持につながるという考え方に至ったとされています。理論が先にあったのではなく、1979年に現場に赴任してから試行錯誤のなかで形づくられた点が特徴です。

「人間らしさを取り戻す」という意味

ユマニチュードという言葉は、フランス語の造語で「人間らしさを取り戻す」という意味を持つと説明されています。認知症が進んで意思の疎通が難しくなっても、その人が一人の人間として尊重されることを重視する考え方です。

ユマニチュードの特徴は、介助の技術だけでなく、相手をどのように見て、どのように関わるかという姿勢を重視する点にあります。技術を身につけることにとどまらず、日々の関わりを通じて本人の存在を認め、尊重することが大切にされています。。

認知症ケアで注目される理由

認知症の人のケアでは、拒否や抵抗をどう受け止めるかが大きな課題になります。ユマニチュードは、ケアが受け入れられるときと拒絶されるときの違いを観察するなかで、見方や話し方、触れ方の違いに着目して組み立てられました。

厚生労働省の審議会資料でも、フランス生まれの認知症ケアの手法として、4つの要素とともに紹介されています。国の制度として位置づけられた標準的な治療法ではありませんが、介護の現場や研修の場で取り上げられる機会が増えています。

背景には、介助する側の負担が大きいという現場の事情があります。力を入れて押さえ込む介助は、介助される人の抵抗を招くだけでなく、介助する人の腰や肩にも負担をかけます。関わり方を見直すことが、双方の負担を減らす方向につながると考えられているのです。

ユマニチュードの4つの柱

ユマニチュードは、次の4つを「ケアの4つの柱」としています。それぞれが伝えたいことは異なりますが、どれか一つだけを使うものではありません。

柱 伝えたいこと 関わり方のポイント
見る あなたを大切に思っている 同じ高さから、近くから、正面から見る
話す 穏やかで安定した関係 低めの声、大きすぎない声、前向きな言葉を使う
触れる 安心と優しさ 広い面積で触れ、つかまず、ゆっくり動かす
立つ 人間らしさと身体機能の維持 その人の力を活用し、立つ機会を残す

見る(相手の存在を認める)

見ることは、相手を大切に思っていることを視線で伝える技術です。立ったまま寝ている人を見下ろすと否定的なメッセージになるとされるため、同じ高さから、近くから、正面から見ることが大切です。

家族であれば自然にできているように思えますが、忙しいときほど視線は手元に向きがちです。介助を始める前に、一度相手の顔を見て目を合わせるという動作を加えるだけでも印象が変わります。

目線の高さを合わせるには、椅子を近くに引き寄せて座る、ベッドの高さまで腰を下ろすといった工夫が勧められています。立ったまま話しかける姿勢が習慣になっている家庭では、介助の前にひとつ椅子を運ぶことから始めると良いかもしれません。

話す(前向きな言葉で伝える)

「じっとしていてください」という声かけは、命令や不快さを含むことがあります。低めの声、大きすぎない声、前向きな言葉を使うことが勧められています。声をかけずに介助することも、相手に否定的なメッセージとして伝わる可能性があります。

実際の介助では、これから行うことを前向きな言葉で実況する方法がとられます。たとえば「腕を上げますね」ではなく「袖を通しますよ、きれいになりましょう」といった具合です。

触れる(安心を伝える)

つかむという行為は相手の自由を奪い、不安や抵抗のきっかけになり得ます。広い面積で触れる、つかまない、ゆっくりと手を動かすことが勧められています。触れる順序も、背中や肩、ふくらはぎなどの鈍感な場所から、手や顔などの敏感な場所へ進めるのがよいとされています。

着替えや移乗のときに腕をつかんで引っ張る介助はやりがちな動作です。支える場所を腕から背中や肩に変えるだけでも、抵抗が減ったという例が報告されています。

立つ(その人の力を活かす)

人間は直立する動物であり、立つことは生理機能の維持にも関わります。ジネスト氏は、1日合計20分立つことができれば、その能力が保たれ、寝たきりの予防につながると提唱しています。

ただし、無理に立たせることが目的ではありません。転倒の危険がある場合は、リハビリテーションの専門職に相談したうえで、支え方や立つ回数を決める必要があります。麻痺や痛みがある場合も同様です。

4つは組み合わせて使う

4つの柱は、単独ではなく組み合わせることに意味があるとされています。例えば同じ高さから目を見て、穏やかな声で声をかけ、背中に触れてから立ち上がる、といった一連の流れです。

家庭で最初からすべてを行うのは難しいため、まずは1つ選んで変えてみるのが現実的です。次の章では、家庭で取り入れやすい場面別の工夫を紹介します。

家庭で取り入れられること

ユマニチュードは、専門職だけのものではありません。日々の介助のなかで少しずつ変えられる部分があります。

声をかける前に視野に入る

後ろから急に声をかけると、本人は何が起きたのか分からず驚きます。まず本人の視野に入り、目が合ってから話し始めるようにします。難聴がある場合は、補聴器の状態を確認したうえで、正面からゆっくり話します。

複数人が同時に声をかけることも混乱のもとになります。声をかける人は一人に決めておくと伝わりやすくなります。

介助の言葉を言い換える

日々の声かけを、次のように言い換えてみましょう。本人の行動を一方的に制限するのではなく、気持ちに寄り添いながら、一緒に取り組めるような伝え方に変えるのがポイントです。

よく使う言い方 言い換えの例
じっとしていてください 一緒に着替えましょう
危ないから座ってください ここに椅子がありますよ、座りましょう
何度言ったら分かるんですか もう一度お伝えしますね
(無言で介助する) 今から袖を通しますね

言葉を変えるだけで、拒否することが減るとは限りません。ただし、家族が発する言葉の調子が変わると、介助する側の気持ちも落ち着きやすくなります。

触れ方と支え方を変える

移動の介助では、腕を強くつかむのではなく、背中や肩に手のひらを広く当てて支えます。歩くときは、本人の半歩後ろを歩き、必要に応じて手を添える形にします。つかまれると感じた瞬間に、人は身を引いたり力を入れたりするためです。

服を着替えさせる場面では、いったん本人の正面に回り、目を見てから手を添えるようにします。一連の動作を急がず、途中で止まっても待つことが大切です。

立つ機会を残す

安全に配慮したうえで、トイレへの移動や食卓への着席など、立つ機会をそのまま残すようにします。車椅子を近づけてすべて済ませるほうが早い場面でも、本人が立てるのであれば、立ち上がる機会を残すことも重要です。

そのためには、住まいの手すりや段差の状態を整えておく必要があります。住宅改修や福祉用具の制度の活用も検討してみてください。

期待できることと限界

ユマニチュードを取り入れるときは、何が期待できて、何は期待できないのかを分けて考えることが大切です。

期待できるとされること

厚生労働省の審議会資料では、従来のケアに比べて1回のケアのなかで「見る・話す・触れる」ができている割合が非常に多いこと、介護拒否が起きにくくなったこと、家族を対象とした研修の後に本人の行動・心理症状や介護者の負担感が低下したとする報告が紹介されています。

ただし、これらは特定の条件のもとでの報告であり、すべての人に同じ変化が起きるとは限りません。認知症の原因疾患や進行の程度、体調、環境によって、反応は変わります。

また、効果を評価する研究は、施設や病院などの集団での実践を対象にしたものが中心です。家庭の介護にそのまま当てはめられるとは限らないため、「こうすればうまくいく」と決めつけるのは避けましょう。

認知症そのものを治すものではない

ユマニチュードは、認知症そのものを治したり進行を止めたりする治療法ではありません。症状を和らげる薬や、ほかのリハビリテーションを置き換えるものでもありません。あくまで、日々の介護のなかでの関わり方を工夫し、より良いケアにつなげるための技法です。

期待した変化がすぐに見られないときに、関わり方の工夫だけを続けてしまうことには注意が必要です。体調の変化や痛みがあるときは、対応を工夫する前に、まず医療機関への相談を検討します。痛みや感染症が原因で不穏になっている場合は、ケアの工夫だけでは解決しないためです。

家族だけで抱え込まない

4つの柱を実践しようとして、家族が「できていない」と自分を責めてしまうことがあります。すべてを一度に変える必要はありません。できそうな場面を1つ決めて、そこだけ変えてみる進め方で十分です。

介護保険の訪問介護や通所サービスを利用している場合は、担当者に「この関わり方を一緒に試してほしい」と伝えると、方針を共有しやすくなります。介護職向けの研修でも取り上げられている技法です。家族と支援者が同じ関わり方をすることが、本人にとってはいちばん落ち着きやすい環境になります。

施設や事業所によっては、すでにユマニチュードを取り入れた研修を行っているところもあります。見学や相談のときに、日々の介助をどのような考え方で行っているかを聞いてみると、施設を選ぶ手がかりにもなります。

よくある質問

Q. ユマニチュードは医療行為ですか?

A. 医療行為ではなく、介護の場面での関わり方をまとめたケアの技法です。認知症を治したり進行を止めたりするものではないため、薬物療法やほかのリハビリテーションと組み合わせて活用するものになります。

Q. 家族でも実践できますか?

A. 家庭で取り入れられる工夫はあります。まずは声をかける前に視野に入ること、無言で介助せず前向きな言葉を添えること、腕をつかまず背中や肩を支えることから始めると取り組みやすいです。

Q. 「立つ」ことが難しい場合はどうすればよいですか?

A. 無理に立たせる必要はありません。転倒の危険や麻痺、痛みがある場合は、理学療法士などの専門職に相談し、支え方や回数を決めてもらうようにしましょう。座ったままでも、目線の高さを合わせるなどの関わり方は実践できます。

まとめ

ユマニチュードは、イヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏が開発した、フランス生まれのケア技法です。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つを柱とし、相手を大切に思っていることを伝える関わり方を重視します。認知症を治す治療法ではなく、日々の介護のなかでの関わり方を整えるもので、厚生労働省の審議会資料でも紹介されています。

家庭で始めるときは、すべてを一度に変える必要はありません。声をかける前に視野に入ること、無言で介助しないこと、腕をつかまずに背中や肩を支えることのどれかひとつから試してみましょう。訪問介護や通所サービスの担当者と同じ関わり方を共有できると、本人にとっての安心につながります。立つ機会を残したい場合は、住まいの環境整備もあわせて検討してください。

この記事のまとめ

  • ユマニチュードはフランス生まれのケア技法で治療法ではない
  • 4つの柱は見る・話す・触れる・立つ
  • 家庭では視野に入る・前向きな言葉・つかまない支え方から始める
  • 家族と支援者が同じ関わり方をすることが本人の安心につながる