前頭側頭型認知症とは?行動・言葉の変化と家族の対応を解説
まだ50代や60代の家族が、急に人の気持ちを考えない言い方をするようになった、同じ行動を一日中くり返すようになった、言葉の意味が分からなくなった——。もの忘れが目立たないぶん、「性格が変わった」と受け止められ、受診が遅れてしまうことが少なくありません。
前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉が変化することで、記憶よりも先に行動や言葉に変化が現れる認知症です。この記事では、どのような症状が現れるのか、なぜ若い世代に多いのか、家族が日々の暮らしで心がけたい対応、そして使える制度と相談先をまとめました。
この記事でわかること
- 前頭側頭型認知症の特徴と3つの型の違い
- 行動・言葉に現れる変化と、若い世代の発症が多い理由
- 叱らずに暮らしを組み立てるための家族の対応
- 介護保険サービスと若年性認知症で使える制度
前頭側頭型認知症とは
前頭側頭型認知症は、脳の前のほうにある前頭葉と、横にある側頭葉が萎縮して働きが低下する病気です。記憶をつかさどる部位よりも、判断や感情の抑制、言葉の理解を担う部位が先に影響を受けるため、症状の出方に特徴があります。
前頭葉・側頭葉の変化によって起こる認知症
前頭葉は、計画を立てる、順序立てて物事を進める、衝動を抑える、相手の気持ちをくみ取るといった働きを担っています。側頭葉は、言葉や物の意味を理解する働きに関わります。これらの部位が障害されるため、前頭側頭型認知症では、記憶の障害よりも、行動や言葉の変化が目立つ形で始まります。
認知症というと「もの忘れから始まる」というイメージを持たれがちですが、前頭側頭型認知症はその典型にあてはまりません。物忘れが目立たないからといって、認知症ではないとは言い切れないことを知っておきましょう。
若い世代に多くみられる認知症
前頭側頭型認知症は、65歳未満で発症する若年性認知症の代表的な原因疾患の一つです。2018年時点の推計では、若年性認知症の人は全国で約3.57万人、原因疾患別ではアルツハイマー型認知症が52.6%、血管性認知症が17.1%、前頭側頭型認知症が9.4%と報告されています。
現役世代で発症するため、仕事の継続や生活費など、生活設計にかかわる問題が同時に起こりやすいのが特徴です。本人の行動の変化が「やる気がない」「性格が変わった」と受け取られ、職場や家族のなかで理解されないまま時間が過ぎてしまうこともあります。
症状の型による3つの分類
前頭側頭型認知症は、どの部位が強く障害されるかによって、行動の障害と、言葉の障害が主体の2つの型に分けられます。言葉の障害は、さらに意味性認知症と進行性非流暢性失語に分かれます。
| 型 | 主な症状 |
|---|---|
| 行動障害型前頭側頭型認知症 | 人格や社会的行動の変化。脱抑制、無関心・無気力、共感の低下、常同行動、食行動の変化など |
| 意味性認知症 | 物の名前が出てこない、単語の意味が分からなくなる。発語の流暢さは比較的保たれる |
| 進行性非流暢性失語 | 発話がたどたどしくなる、文法が崩れる、言葉が出てきにくくなる。単語の意味理解は比較的保たれる |
型によって困りごとの内容は変わりますが、症状が重なり合うこともあります。診断は、症状の経過、神経心理検査、画像検査を組み合わせて行われます。
アルツハイマー型認知症との違い
もっとも大きな違いは、初期に何が障害されるかです。アルツハイマー型認知症では新しい出来事の記憶障害から始まることが多いのに対し、前頭側頭型認知症では人格や社会的な行動、言葉の意味の理解が早い段階で変化します。物忘れが目立たないため、認知症と気づかれにくいのが特徴です。
また、うつ病や双極性障害などの精神疾患、発達障害、脳血管障害、甲状腺の病気、薬やアルコールの影響でも似た行動の変化が起こるため、鑑別のための検査が必要です。行動の変化が続いているのに原因がはっきりしない場合は、精神科だけでなく脳神経内科も受診できる医療機関を選ぶと、診断が進みやすくなります。
現れやすい行動と言葉の変化
前頭側頭型認知症で現れる変化は、本人の性格や努力の問題ではなく、脳の働きの変化によるものです。代表的な現れ方を知っておきましょう。
判断や抑制が働かなくなる
もっとも目立つのは、社会的な行動の変化です。人の話を遮る、順番を待てない、思ったことをそのまま口にする、相手の気持ちを考えない言い方をする、身だしなみに無関心になるといった変化が現れます。信号を無視する、人の家や敷地に無断で入る、店の商品を持ち出してしまうなど、社会生活のルールが守れなくなることもあります。
本人に悪意があるわけではなく、抑制や判断を担う前頭葉の働きが低下した結果として起きている行動です。とはいえ周囲とのトラブルに発展しやすいため、家族だけで抱え込まず、早い段階で医療・介護の関係者に状況を共有しておきましょう。
同じ行動を繰り返す常同行動
毎日決まった時間に同じ行動をする、同じ道を歩く、同じ言葉を繰り返す、同じ食べ物だけを食べるといった常同行動がみられます。本人にとっては、決まった行動を繰り返すことが安心につながっていると考えられています。無理にやめさせようとすると、かえって強い不安や興奮を招くことがあります。
危険が伴う場合は、行動そのものをやめさせるのではなく、環境のほうを変えて安全を確保するという考え方が基本になります。
食行動の変化
食欲が増して食べ過ぎる、甘いものや濃い味のものを好むようになるといった変化が現れます。食事の量や内容が変わることで、体重の増加や血糖値の変化、誤嚥のリスクにもつながります。
食事の量を一度に減らそうとするより、野菜や汁物を先に出す、小皿に分けてゆっくり食べるといった工夫から始める方が続きやすいものです。
言葉の意味が分からなくなる・話しにくくなる
意味性認知症では、物の名前が出てこない、単語の意味が分からないといった変化から始まります。会話の流暢さは比較的保たれるため、話しているぶんには気づかれにくいことがあります。
進行性非流暢性失語では、発話がたどたどしくなる、言葉が途切れる、助詞が抜けて文法的に崩れる、言葉が出てくるまでに時間がかかるといった変化が現れます。こちらは、単語の意味を理解する力は比較的保たれるのが特徴です。いずれの場合も、伝えたいことを急がせず、はい・いいえで答えられる聞き方や、写真や文字を補った意思疎通の方法が役立ちます。
病識が乏しく見える理由
前頭側頭型認知症では、自分の変化に気づきにくい、あるいは軽く見積もってしまう傾向があります。そのため「病院に行く必要はない」と受診を拒んだり、家族が指摘しても聞き入れなかったりすることがあります。
これは本人が頑固になったというより、自分の状態を客観的に評価する働きが影響を受けているためと考えられています。受診を説得しようと言い争うより、「体の調子を見てもらう」という伝え方をするほうが、本人が応じやすいことがあります。
家族の対応で心がけたいこと
前頭側頭型認知症のケアでは、症状を止めようとするより、安全を確保しながら本人が落ち着ける暮らしをつくることが中心になります。介護者が感情的になると本人の興奮が強まることもあるため、関わり方に注意が必要です。
叱らない・無理に訂正しない
間違った言動を強く叱る、無理に訂正する、急がせる、急に予定を変えるといった関わりは、本人の不安や興奮を強めます。短く、分かりやすく、一つずつ伝え、本人のペースを保つことが基本です。
同じことを何度も繰り返しているときも、叱らずに同じ調子で応じるほうが、結果的に早く落ち着きます。介護する側が限界に近づいていると感じたら、その場をいったん離れて距離を置くことも、適切な対応のひとつです。
常同行動を生活のリズムに活かす
常同行動は、止める対象ではなく、日々の暮らしを整える手がかりとして活用できます。本人が繰り返しやすい行動を、安全に取り組める日課として置き換え、決まった時間帯に組み込んでみてください。。例えば、散歩の時間を決める、パズルや手作業、カラオケ、編み物など、本人が以前から慣れている作業を日課に組み込む方法が紹介されています。
家事や片づけなど、本人がもともと得意としていた役割を残すことも効果的です。できている部分を見つけて任せると、本人が落ち着いて過ごせる時間が増えます。ただし、安全に行える範囲にとどめ、無理に参加させないことが前提です。
刺激を減らし、安心して過ごせる環境づくり
前頭側頭型認知症の人は、周囲の刺激の影響を受けやすいとされています。騒がしい場所、テレビや映像の刺激、強い光、食べ物のにおいなどが、落ち着きのなさや衝動的な行動の引き金になり得ます。静かで刺激の少ない環境を選び、できれば一対一で関わる場面を増やすことが勧められています。
あわせて、日々の環境や対応の仕方をできるだけ一定に保ちましょう。同じ場所、同じ手順、同じ担当者による対応を増やし、急な旅行や外出、席の変更など、生活パターンを大きく変える予定はできるだけ避けます。症状が急に変わったように見えるときは、薬の影響だけでなく、環境の変化、体調、睡眠、痛みがないかを確かめてください。
万引きなど反社会的な行動への備え
判断や抑制の障害により、本人に悪意がなくても、万引き、無断立ち入り、交通ルールの無視といった行動が生じることがあります。起きてしまったあとに長時間説教しても、行動は改善しにくく、むしろ本人を責めることが家族の疲弊につながります。
大切なのは、起きた時間・場所・直前の状況を記録し、外出時は単独行動を避けるなど、再び繰り返さないように備えることです。近隣や店舗との関係が心配な場合は、家族だけで対応せず、主治医や地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談しておきましょう。
制度と相談先をどう使うか
前頭側頭型認知症は65歳未満で発症することが多いため、介護保険だけでなく、難病や障害への支援、就労の支援も組み合わせて使うことになります。使える制度を早めに把握しておくと、生活設計を立てやすくなります。
介護保険で検討したいサービス
サービスを利用するには、まず市区町村に要介護認定を申請します。認定後はケアマネジャーがケアプランを作成し、訪問介護、訪問看護、通所介護、短期入所、福祉用具貸与などを組み合わせます。40歳から64歳までの方は、特定疾病による要介護状態であれば介護保険を利用できます。
前頭側頭型認知症の場合は、集団のなかで落ち着きにくいことがあるため、刺激が少なく、少人数で、同じ職員が継続して関わる事業所かを確認することが重要です。利用前には、常同行動、外出の傾向、人との距離の取り方など具体的な行動を伝えておくと、行き違いを減らせます。
指定難病の医療費助成を受けられる場合がある
前頭側頭型認知症のうち、行動障害型前頭側頭型認知症と意味性認知症は、指定難病の「前頭側頭葉変性症」として医療費助成の対象になり得ます。診断基準を満たしたうえで、重症度分類が3以上に該当するか、重症度が3未満でも医療費が一定額以上かかる「軽症高額」に該当すれば助成を受けられます。診断基準では発症年齢65歳以下が対象とされています。
助成の対象は重症度分類3以上、または軽症高額のいずれかに該当する場合で、診断名がついただけでは自動的に受けられません。申請には難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要で、審査には2〜3か月程度かかるとされています。申請先はお住まいの都道府県または指定都市の難病担当窓口です。
若年性認知症の相談窓口と、年金・手帳の制度
65歳未満で発症した場合は、若年性認知症の相談支援の対象になります。都道府県・指定都市には若年性認知症支援コーディネーターが配置され、本人やご家族からの相談、医療へのつなぎ、使える制度の情報提供、職場との調整などを担っています。国が設置する若年性認知症専用のコールセンター(0800-100-2707、月曜日〜土曜日の午前10時〜午後3時、祝日・年末年始を除く)も利用できます。
所得の面では、障害年金と精神障害者保健福祉手帳が検討できます。障害年金は、初診日が65歳未満であることが要件の一つで、原因となった症状について最初に医師の診療を受けた日が初診日になります。精神障害者保健福祉手帳は、原則として初診日から6か月以上経過した後に、市区町村の障害福祉担当窓口へ申請します。どちらも病名だけで決まるものではないため、早い段階で年金事務所と市区町村の双方に相談しておくと安心です。
| 制度 | 窓口 | ポイント |
|---|---|---|
| 指定難病の医療費助成 | 都道府県・指定都市の難病担当窓口 | 重症度分類3以上、または軽症高額が対象。臨床調査個人票が必要 |
| 障害年金 | 年金事務所 | 初診日が65歳未満であることが要件の一つ。初診日の記録が重要 |
| 精神障害者保健福祉手帳 | 市区町村の障害福祉担当窓口 | 原則、初診日から6か月以上経過後に申請 |
| 若年性認知症支援コーディネーター | 都道府県・指定都市 | 相談支援、制度の情報提供、関係機関との調整 |
よくある質問
Q. もの忘れがないのに、認知症になることがあるのですか?
A. 前頭側頭型認知症では、記憶をつかさどる部位よりも、判断や抑制、言葉の理解に関わる部位が先に障害されるため、もの忘れが目立たないまま人格や行動、言葉の変化が現れます。もの忘れの有無だけで判断せず、行動の変化が続く場合は専門の医療機関に相談してください。
Q. 万引きをしてしまったときは、どう対応すればよいですか?
A. 本人に悪意がなく、判断や抑制の障害による行動である場合があります。長時間説教しても改善しにくいため、起きた状況を記録し、外出時の同行など再び繰り返さないよう対策しましょう。家族だけで抱え込まず、主治医や地域包括支援センター、ケアマネジャーに相談してください。
Q. 仕事を続けながら介護する場合、どこに相談すればよいですか?
A. 都道府県・指定都市の若年性認知症支援コーディネーターが、制度の情報提供や職場との調整を担っています。若年性認知症専用コールセンター(0800-100-2707)でも相談できます。あわせて、介護休業制度など勤務先の制度も確認しておきましょう。
まとめ
前頭側頭型認知症は、前頭葉と側頭葉の変化によって、もの忘れよりも先に人格・社会的行動・言葉の変化が現れる認知症です。行動障害型、意味性認知症、進行性非流暢性失語の3つの型に分けられ、65歳未満で発症する若年性認知症の原因疾患の一つでもあります。うつ病や発達障害と間違われやすいため、行動の変化が続くときは脳神経内科や精神科で鑑別を受けることが大切です。
日々の対応では、叱らずに無理な訂正をしないこと、常同行動を安全な日課として活かすこと、刺激を減らして安心できる環境を保つことが基本になります。制度の面では、介護保険のサービスに加えて、指定難病の医療費助成、障害年金、精神障害者保健福祉手帳、若年性認知症支援コーディネーターの相談支援が使える場合があります。市区町村の介護保険窓口と地域包括支援センターに相談し、生活設計とあわせて制度を組み立てていきましょう。
この記事のまとめ
- 前頭側頭型認知症は前頭葉・側頭葉の変化により行動や言葉の変化が先に現れる
- 行動障害型・意味性認知症・進行性非流暢性失語の3つの型がある
- 叱らず常同行動を日課に活かし、刺激を減らして安心できる環境を整えることが基本
- 指定難病の医療費助成や若年性認知症の相談窓口など、使える制度を早めに確認する