認知症の物盗られ妄想にはどう対応する?責められたときの接し方と相談先

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「あんたが財布を取っただろう」と言われ、身に覚えのないことで責められる。介護している家族が最もつらいと感じる場面のひとつです。事実を説明して分かってもらおうとすればするほど、本人は怒り出し、家族も感情的になってしまうという相談は少なくありません。

この記事では、物盗られ妄想が起こる仕組みと、否定や説得がよくないとされる理由、起きたときの接し方、相談先と受診を考える目安を、厚生労働省の家族支援の資料にもとづいてまとめました。

この記事でわかること

  • 物盗られ妄想が起こる仕組みと現れ方
  • 否定や説得が症状を悪化させることがある理由
  • 起きたときの接し方と避けたい対応
  • 相談先と、医療機関への受診を考える目安

物盗られ妄想とはどんな症状か

物盗られ妄想は、認知症の人に比較的よく見られる症状です。まず、どのようなものかを確認します。「もの盗られ妄想」と表記されることもあります。

「盗られた」と強く信じる状態

物盗られ妄想は、財布や預金通帳、貴金属などを「誰かに盗られた」と本人が強く信じる状態です。実際には盗まれていない、あるいは本人が置き忘れているだけの場合でも、本人のなかでは盗難が起きたことになっています。

幻覚や妄想は認知症だけでなく、せん妄など身体状態の変化でも生じることがあります。症状の現れ方によって、疑う原因が変わってきます。

起こる仕組み

認知症では記憶障害や見当識障害のほかに、環境やケア、健康状態、心理状態の影響によって、妄想や幻覚、興奮、焦燥といった行動・心理症状(BPSD)が現れることがあります。行動・心理症状は、本人が発しているサインともいわれ、症状を未然に防ぐことと、早く気づくことが大切だとされています。

物を置いた場所を思い出せない、という記憶の障害が土台にあります。そこに、不安や焦り、まわりの人への不信感が重なって、「自分が置き忘れたのではなく、誰かに取られた」という筋書きになるのだと考えられています。

家族が疑われやすい

妄想の対象になりやすいのは、身近にいる家族です。もっとも近くにいて、お金や書類の管理を任されている人ほど、疑いの対象になりやすいと考えられます。とくに、嫁や娘など、本人と生活時間を共有している家族が対象になることがあります。

介護に協力的な人ほど疑われるという、やりきれない構図になります。しかし、疑われたからといって、実際に何かをしたわけではありません。認知症の症状によって、本人が事実とは異なる認識を持っている可能性があると理解しておくことも、介護する家族の心の負担を和らげる助けになります。

否定や説得がよくない理由

「盗られていない」と事実を伝えれば解決しそうに思えますが、この対応は逆効果になることが少なくありません。

本人にとっては現実に起きたこと

幻覚や妄想を経験している認知症の人にとって、それは現実として経験されています。そのため、まわりが否定しても、本人にとっては自分の体験を否定されたことになります。

記憶の障害があるため、説明を受けた直後にその説明自体を忘れてしまうこともあります。何度説明しても同じ訴えが繰り返されるのは、本人が頑ななのではなく、症状の性質によるものです。

否定や説得は症状の悪化につながることがある

幻覚や妄想は、まわりが否定したり、正しい事実を理解させようとしたりすることで、かえって本人が混乱し、症状が増悪することもあるとされています。厚生労働省の家族支援の資料でも、本人の訴えを否定したり事実を説得したりすることは症状の増悪につながるとしたうえで、妄想の内容には肯定も否定もしないことが対処として示されています。

否定や説得を続けるほど、本人の不安と家族の疲労が大きくなるという点は、覚えておきたいところです。家族が「そんなはずない」と説明を続けると、本人は自分の体験を信じてもらえないと感じ、怒りや不安が強まります。その結果、家族との関係が悪くなり、介護そのものが難しくなることがあります。

起きたときの接し方

では、実際に責められたときはどう動けばよいのか。厚生労働省の家族支援の資料に沿って、順番に整理します。

まず訴えを聞く

最初にすることは、反論ではなく、話を聞くことです。「それは大変だったね」「心配だったね」と、盗難の事実そのものではなく、本人が困っている気持ちに寄り添います。盗まれたという主張に同意するのではなく、困っているという感情を受け止めるという意味です。

このとき、忙しい手を止めて、本人の正面に座って聞くようにします。ながら作業のまま聞くと、聞いてもらえたという実感が湧きにくくなります。

肯定も否定もせず、一緒に確認する

次に、心当たりのある場所を本人と一緒に探します。見つからないときに家族が必死になって探し続けたり、「ここにもないでしょう」と追い詰めたりするのは避けます。

探す目的は、見つけることではなく一緒に確認する行為そのものです。見つからないまま本人が落ち着かないときは、いったん話題を変えます。「お茶でも飲みましょうか」と別の行動に移ることで、気持ちが切り替わることがあります。

視界から離れて注意をそらす

妄想の対象に家族が含まれている場合は、その家族がいったん本人の視界から離れ、注意をそらすことが勧められています。目の前に「犯人」がいる状態が続くと、訴えが繰り返され、家族もその場を離れにくくなります。

「用事を済ませてくるね」と一声かけて、別の部屋に移るだけでも構いません。逃げるのではなく、いったん場を離れて、本人が落ち着ける状況をつくることがねらいです。

感情に共感する

家族に余裕があるときは、妄想によって生じている本人の感情に共感を示すことがよい対処とされています。「不安だったんだね」「落ち着かないよね」と、感情の部分を受け止めます。

ただし、家族が追い詰められている場合には、この対応がかえって負担を増やすこともあるとされています。余裕がないときは無理をせず、視界から離れる対応を選びましょう。

記録してきっかけを探る

妄想や幻覚が生じる状況を観察し、きっかけや原因を推測することも、大切な対応です。いつ、どこで、何をしていたときに訴えが起きたかを記録します。

あわせて、睡眠や食事、排泄の状態、痛みの有無、服薬の変化も書き留めておきます。体調の変化が背景にある場合、記録があると医療機関で相談しやすくなります。

ここまでに見てきた対応を、望ましい対応と避けたい対応に分けて整理します。

望ましい対応 避けたい対応
本人の訴えを最後まで聞く 「そんなはずない」とすぐに否定する
「困ったね」と感情に寄り添う 証拠を示して事実を分からせようとする
一緒に心当たりを確認する 「また同じことを言って」と責める
落ち着かないときは視界から離れる その場で言い争いを続ける
起きた状況と体調を記録する 原因を探さず、対応だけで済ませる

どれも、本人の訴えを認めることではありません。事実関係を争わずに、本人の不安を小さくする方向へ動くという考え方です。

相談先と受診を考える目安

家族だけで対応を続けると、疲労が積み重なります。相談できる窓口をあらかじめ知っておきましょう。

地域包括支援センターと認知症初期集中支援チーム

市区町村が設置する地域包括支援センターは、高齢者の総合相談窓口です。保健、医療、介護に関する相談を受け付け、必要に応じて医療機関や支援機関につなぎます。すべての市区町村に設置されています。

相談するときは、「物盗られ妄想がある」「家族が犯人扱いされて困っている」「どんな場面で起きるか」「生活にどの程度支障が出ているか」を伝えます。具体的に伝えるほど、必要な支援につながりやすくなります。

家庭での対応が難しいときは、認知症初期集中支援チームにつないでもらう方法があります。医療と介護の専門職が、認知症が疑われる人や認知症の人、その家族を訪問し、必要な医療や介護の導入、家族支援などを集中的に行う仕組みです。

利用を希望する場合は、本人が住んでいる地域の地域包括支援センターか、市区町村の高齢者福祉担当課に相談するのが一般的な進め方です。

かかりつけ医と認知症疾患医療センター

妄想が強い場合、生活への支障が大きい場合、急に症状が現れた場合は、かかりつけ医への相談が勧められます。認知症疾患医療センターでは、鑑別診断や行動・心理症状への対応、専門医療相談、関係機関との連携が行われます。

受診のときは、記録しておいた状況をそのまま持参します。本人の前で症状を説明しづらい場合は、事前にメモを渡すか、本人が待合室にいるあいだに伝える方法もあります。

急な変化はせん妄を疑う

妄想や幻覚は、認知症だけでなく、せん妄など身体状態の変化でも生じます。せん妄が疑われるときは、体調管理を促し、必要に応じて医療機関で身体的な不調がないかを確認します。急に始まった、意識がはっきりしない時間がある、発熱や脱水があるといった場合は、早めに医療機関へ相談しましょう。

対応を工夫しても改善が見込めないときも、同じく医療機関への相談を検討します。介護の工夫だけでは解決しない背景が隠れていることがあります。

主な相談先と家族の会

主な相談先を整理すると、次のとおりです。

相談先 相談できる内容
地域包括支援センター 介護・医療・福祉の総合相談、支援機関へのつなぎ
認知症初期集中支援チーム 専門職の訪問による集中的な支援、医療・介護の導入
かかりつけ医 体調や服薬の確認、専門医療への紹介
認知症疾患医療センター 鑑別診断、行動・心理症状への対応、専門医療相談
認知症の人と家族の会 同じ立場の家族による電話相談

同じ経験をした家族の話を聞ける場も、大きな支えになります。厚生労働省は、公益社団法人「認知症の人と家族の会」の電話相談を案内しています。フリーダイヤルは0120-294-456、携帯電話・PHSからは050-5358-6578で、月曜日から金曜日の午前10時から午後3時まで(祝日を除く)受け付けています。

市区町村によっては、認知症カフェや家族交流会が開かれています。責められるつらさを一人で抱え込まず、同じ立場の人に話せる場を持つことが、介護を続ける力になります。

よくある質問

Q. 物盗られ妄想で家族が疑われたとき、事実を説明してはいけませんか?

A. 事実を伝えて分かってもらおうとすると、本人は自分の体験を否定されたと感じ、症状が悪化することがあります。まず訴えを聞き、盗難の事実そのものではなく、困っている気持ちに寄り添う対応が勧められています。

Q. 妄想を肯定してしまうと、症状が進みませんか?

A. 肯定も否定もせずに、本人の感情に寄り添うことが基本とされています。「盗られたんだね」と事実を認めるのではなく、「心配だったね」と気持ちを受け止める形です。実際に盗まれている可能性があるときは、別の機会に状況を確認します。

Q. どこに相談すればよいか分かりません。

A. まずは市区町村が設置している地域包括支援センターに相談してください。認知症初期集中支援チームによる訪問支援が必要な場合や、認知症疾患医療センターでの診断が必要な場合も、ここが入口になります。

まとめ

物盗られ妄想は、財布や通帳を「盗られた」と本人が強く信じる状態で、記憶の障害と不安が重なって起こると考えられています。本人にとっては現実の出来事であるため、否定や説得はかえって混乱を招き、症状が増悪することがあります。妄想の内容には肯定も否定もせず、訴えを聞いて感情に寄り添い、落ち着かないときは視界から離れて注意をそらす。これが対応の基本になります。

症状が強いときや生活への支障が大きいときは、記録を持ってかかりつけ医に相談しましょう。急に始まった場合や意識状態が変化している場合は、せん妄の可能性もあるため早めの受診が必要です。まずは地域包括支援センターに相談し、認知症初期集中支援チームや認知症疾患医療センターにつないでもらう流れをつくっておくと、家族が一人で抱え込まずに済みます。

この記事のまとめ

  • 物盗られ妄想は記憶の障害と不安が重なって起こる症状
  • 否定や説得は本人を混乱させ症状を悪化させることがある
  • 訴えを聞き、肯定も否定もせず、必要なら視界から離れる
  • 地域包括支援センターが相談の入口、急な変化はせん妄を疑う