はじめての介護

2026.01.20

AIが介護にもたらすメリットとは?現場が変わる最新活用事例

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介護現場では人材不足や業務負担の増加が深刻化しており、介護職員の働き方改革と利用者への質の高いケア提供の両立が求められています。こうした課題に対して、AI技術を活用した業務効率化の取り組みが注目を集めています。本記事では、介護分野におけるAI活用の基本的な仕組みから、現場にもたらされる具体的なメリット、導入時の課題と対策まで、介護に携わる方々や家族介護者の視点から詳しく解説します。

介護現場を支えるAI

介護分野におけるAI技術は、機械学習や自然言語処理などの人工知能を活用して、介護業務の効率化と質の向上を実現する取り組みです。まずは、介護現場でのAIの基本的な定義から、具体的な導入事例までを見ていきましょう。

介護現場でのAIの定義

介護分野におけるAIは、情報を感知するセンサー系、判断を行う知能・制御系、実際に動作する駆動系という3つの技術要素で構成される知能化された機械システムとして定義されます。これらの要素が組み合わさることで、介護職員の業務を支援しながら、利用者へのサービス品質を維持・向上させる基盤となっています。

介護現場でのAI活用は、大きく分けて生成AIと介護ロボットの2つの形態に分類できます。生成AIは文章生成や分析に特化しており、介護記録の作成やケアプラン立案などの情報処理業務を支援します。一方、介護ロボットは物理的な作業支援を行い、移乗介助や見守りなどの身体的負担が大きい業務をサポートします。これらの技術は補完的な関係にあり、組み合わせることで介護現場の包括的な効率化が実現します。

厚生労働省は介護現場におけるAI技術の活用などを通じた生産性向上の取組の実態調査研究事業を実施しており、国家レベルでの推進体制が整備されています。こうした取り組みにより、専門職が本来の対人援助に集中できる環境が整いつつあります。

介護ロボットの主な種類と役割

介護ロボットは物理的な作業支援に特化しており、介護職員の身体的負担を軽減する重要な役割を担っています。まずは、介護現場で活用されている主な介護ロボットの種類を見ていきましょう。

介護ロボットは、その機能と用途によって複数のカテゴリーに分類されます。移乗支援ロボットは、ベッドから車椅子への移動など、介助者の腰への負担が大きい作業を支援します。移動支援ロボットは、歩行が不安定な方の自立的な移動を補助し、転倒リスクを軽減します。排泄支援ロボットは、排泄介助の身体的負担を軽減しながら、利用者の尊厳を保つ支援を実現します。

これらの介護ロボットは、AIによる制御技術と組み合わせることで、より安全で効果的な介助を提供できます。例えば、利用者の体重や体格に応じて最適な移乗動作を自動調整する機能や、利用者の歩行パターンを学習して適切な支援レベルを判断する機能などが実装されています。

国内の介護現場へのAI導入状況

国内の介護現場では、AI技術を活用した業務効率化の取り組みが広がっており、複数の領域で実装が進んでいます。介護記録の入力補助やケアプラン作成の支援など、情報処理業務での活用が特に進展しています。

厚生労働省による実態調査では、介護施設や在宅サービス事業所でのAI導入率は年々上昇しており、特に規模の大きい施設での導入が先行しています。また、介護ロボットについては、初期費用の高さや操作の複雑さが普及の課題として指摘されていますが、補助金制度の拡充により導入を検討する施設が増加しています。

一方で、小規模な事業所や在宅介護の現場では、導入コストや操作研修の負担が大きく、導入が進んでいない状況も見られます。こうした格差を解消するため、クラウドサービスを利用した低コストのAIソリューションや、操作が簡単な介護支援機器の開発が進められています。

介護現場でのAIのメリット

AI技術の導入は、介護職員の働き方と利用者へのケア提供の両面で大きなメリットをもたらします。次に、具体的なメリットを5つの観点から詳しく見ていきましょう。

スタッフの身体的負担と業務効率の改善効果

介護ロボットやAI支援システムの導入により、移乗介助や入浴介助などの身体的負担が大きい業務での職員の負担を大幅に軽減でき、腰痛などの職業性疾患のリスクも低減します。これにより、介護職員が長期的に働き続けられる環境が整います。

移乗支援ロボットを導入した施設では、介助者の腰への負担が平均で30から40パーセント軽減されたという報告があります。また、職員一人あたりが担当できる利用者数が増加し、人材不足の緩和にもつながっています。特に夜間帯での見守りAIの活用により、少ない人員でも安全なケア提供が可能になっています。

業務効率の面では、AI導入により日常的な業務の多くが自動化・効率化され、職員が利用者とのコミュニケーションや個別ケアに時間を割けるようになっています。これは介護の質の向上と職員の働きがいの向上の両方に寄与しています。

記録業務やケアプラン作成の時間短縮効果

生成AIを活用することで、ケアプラン立案のプロセスを大きく効率化でき、利用者の基本情報を入力するだけで適切な目標設定やサービス内容を含む詳細なケアプラン案を短時間で生成します。ケアマネジャーやサービス提供責任者は生成されたプラン案を土台にして微調整や個別化を行うことができます。

具体的な活用例として、「85歳女性、要介護2、右片麻痺あり、自宅での入浴が困難、社会的交流を望んでいる」といった情報を提供し、「通所介護計画書を作成してください。特に入浴介助と社会的交流の機会の提供に重点を置き、具体的な支援内容、頻度、期待される効果を含めてください」という指示を与えると、AIは適切な目標設定、具体的なサービス内容、提供方法、頻度、期待される効果などを含む計画書案を生成します。

従来は数時間かかっていたケアプラン作成が、AIの支援により30分から1時間程度に短縮されるケースも報告されています。また、介護記録の自動化により、記録作成にかかる時間が1件あたり5分から10分程度削減され、職員一人あたり1日30分から1時間の時間が節約されています。

転倒検知や徘徊予測で高まる安全性

AIによる転倒検知や徘徊予測システムは、事故が発生する前に適切な予防措置を講じることを可能にし、利用者の安全性を大幅に向上させます。特に夜間帯や人員が限られる時間帯での安全確保に効果を発揮しています。

転倒検知システムでは、ベッドからの離床動作や歩行時のふらつきをセンサーが検知し、転倒リスクが高いと判断した場合に職員へ自動通知します。これにより、職員が利用者のもとへ駆けつけて転倒を未然に防ぐことができます。実際の導入事例では、転倒事故の発生率が30から50パーセント減少したという報告もあります。

徘徊予測システムは、認知症の方の行動パターンや生活リズムをAIが学習し、徘徊リスクが高まる時間帯や状況を予測します。これにより、事前に見守りを強化したり、家族や関係者に注意喚起したりすることが可能になります。また、GPSと連動したシステムでは、実際に徘徊が発生した場合でも迅速に位置を特定できます。

コスト面におけるメリット

AI導入には初期費用がかかりますが、中長期的には業務効率化による人件費の削減や、事故防止による損失の低減など、様々なコスト面でのメリットが期待できます。まずは、具体的なコスト削減効果を見ていきましょう。

業務効率化により、同じ人員でより多くの利用者に対応できるようになり、実質的な人件費の削減効果が得られます。また、記録業務の自動化により残業時間が減少し、時間外手当の削減にもつながります。ある施設では、AI導入後に職員一人あたりの残業時間が月10時間程度減少し、年間で数百万円の人件費削減を実現したケースもあります。

事故防止の面では、転倒や徘徊による事故が減少することで、医療費や訴訟リスクが低減します。また、介護職員の腰痛などの職業性疾患が減少することで、休職や離職による人材確保コストも削減できます。クラウドサービスを利用する場合は、従来のオンプレミス型システムと比較して初期費用を抑えることができ、小規模事業所でも導入しやすくなっています。

介護現場へのAI導入の課題

AI導入には多くのメリットがある一方で、現場への実装にはいくつかの課題もあります。次に、導入時に直面する主な課題と、その対策について詳しく見ていきましょう。

初期費用と運用コストの見立て方

AI導入の成功には、システム導入の初期費用であるソフトウェアライセンス、ハードウェア、導入支援、職員研修などの確保が必要であり、これらのコストを事前に正確に見積もることが重要です。導入後の運用コストも含めた総合的な投資計画を立てる必要があります。

初期費用の内訳としては、AIソフトウェアのライセンス費用、センサーやタブレットなどのハードウェア費用、システム導入支援費用、職員研修費用などがあります。規模や機能によって異なりますが、小規模事業所で数十万円から、大規模施設では数百万円から数千万円の初期投資が必要になります。また、クラウドサービスを利用する場合は、月額料金制となり初期費用を抑えられますが、長期的な運用コストを考慮する必要があります。

国や自治体の補助金制度を活用することで、初期費用の一部を補填できる場合があります。厚生労働省の介護ロボット導入支援事業や、各自治体独自の補助制度などを確認し、計画的に申請することが重要です。また、リース契約や分割払いの活用により、一時的な資金負担を軽減する方法もあります。

プライバシーとデータガバナンスの対策

AIシステムは利用者の個人情報や健康情報、生活状況などのセンシティブなデータを扱うため、適切なプライバシー保護とデータ管理体制の構築が不可欠です。情報漏洩や不正利用のリスクに対して、技術的・組織的な対策を講じる必要があります。

技術的対策としては、データの暗号化、アクセス権限の厳格な管理、定期的なセキュリティ監査などが重要です。特に見守りカメラなどの映像データについては、録画範囲の適切な設定や、必要最小限の期間のみ保存するルールの策定が求められます。また、クラウドサービスを利用する場合は、サービス提供者のセキュリティ対策やデータ保管場所の確認も必要です。

組織的対策としては、個人情報保護方針の明確化、職員への教育研修の実施、利用者や家族への十分な説明と同意取得が重要です。AIによるデータ収集や分析の目的、利用範囲、保管期間などを明示し、利用者や家族が理解・納得した上で同意を得ることが信頼関係構築の基盤となります。

職員の受け入れと教育体制の整備

AI導入の成功には、現場の職員がシステムを受け入れ、適切に活用できるようになることが不可欠です。まずは、職員の不安や抵抗感を解消し、積極的な活用を促進する教育体制の整備について見ていきましょう。

職員の中には、「AIに仕事を奪われるのではないか」「操作が難しくて使いこなせないのではないか」といった不安を抱く方もいます。こうした不安を解消するためには、AIはあくまでも業務を支援する道具であり、最終的な判断や調整は人間の専門性に基づいて行われることを丁寧に説明する必要があります。また、AIの導入により生まれた時間を、利用者とのコミュニケーションや質の高いケア提供に活用できることを示すことが重要です。

教育体制としては、段階的な研修プログラムの実施が効果的です。まず基本的な操作方法を学ぶ初期研修、実際の業務での活用方法を学ぶ実践研修、困ったときのサポート体制の整備などが必要です。また、ITに不慣れな職員にも配慮し、個別のフォローアップや、操作に慣れた職員がサポートする仕組みを作ることも重要です。

法規制や倫理面での留意点

AI活用においては、介護保険法や個人情報保護法などの関連法規を遵守するとともに、倫理的な配慮が求められます。特に、AI判断の透明性や説明可能性、利用者の自己決定権の尊重などが重要な論点となっています。

法規制の面では、介護サービスの提供において守るべき基準が介護保険法で定められており、AIを活用する場合でもこれらの基準を満たす必要があります。例えば、ケアプランの作成においては、利用者や家族の意向を十分に反映させることが求められており、AIが生成したプラン案をそのまま採用することはできません。必ず利用者や家族と相談し、同意を得たうえで最終的なプランを決定する必要があります。

倫理面では、AIによる判断や予測が利用者に不利益をもたらさないよう、慎重な配慮が必要です。例えば、転倒リスクが高いと予測された利用者に対して、過度な行動制限を行うことは、利用者の尊厳や自己決定権を損なう可能性があります。AIの判断を参考にしつつも、利用者の意向や生活の質を最優先に考え、バランスの取れた支援を提供することが求められます。

まとめ

介護分野におけるAI活用は、業務効率化と利用者サービスの質向上を同時に実現する可能性を持つ技術として、急速に普及が進んでいます。AI導入のメリットとしては、職員の身体的負担と業務効率の改善、記録業務やケアプラン作成の時間短縮、転倒検知や徘徊予測による安全性の向上、コスト面でのメリットなどが挙げられます。一方で、初期費用と運用コストの確保、プライバシーとデータガバナンスの対策、職員の受け入れと教育体制の整備、法規制や倫理面での配慮などの課題もあります。

AI導入を成功させるためには、これらの課題に適切に対処しながら、AIはあくまでも業務を支援する道具であり、最終的な判断や調整は人間の専門性に基づいて行うという姿勢が重要です。AIの効率性と人間の判断力を組み合わせることで、介護職員が本来の対人援助に集中できる環境が整い、利用者へのより丁寧なケア提供が実現します。今後も技術の進化とともに、介護現場でのAI活用の可能性はさらに広がっていくでしょう。