なぜ高齢者に口腔ケアが重要なのか?見落とされがちな健康リスク

img

高齢になった親の介護をしていると「最近親の食事量が減った」「食事中にむせこむことが増えた」と感じるものの、「年のせいだから仕方ない」と放置してしまうケースが多くあります。

実は、これらのサインは口腔機能が衰えている「オーラルフレイル」の初期症状です。オーラルフレイルの症状や適切な対策をしないままにしておくと、口だけの問題にとどまらず、誤嚥性肺炎や認知症などのさまざまな全身疾患へとつながる可能性があります。

この記事では、高齢者におけるオーラルフレイルの危険性や口腔ケアの重要性について解説します。最新の医学的知見をもとに、今日からできる予防のアクションも紹介するので、ぜひ参考にしてください。

「むせる」「食べこぼす」は老化のサインではない——オーラルフレイルとは何か

オーラルフレイルとは、「老化に伴い口腔環境・口腔機能が低下していく状態」を指します。口腔内の些細なトラブルからはじまりますが、そのまま症状が進行・悪化してしまうと、「症状が無い人と比べて2年以内に身体的フレイルを発症する確率が2.4倍、4年以内に死亡するリスクは約2倍になる」という研究もあるため注意が必要です。

ここでは、オーラルフレイルの基礎知識として2点解説します。
 1. オーラルフレイルのセルフチェック——こんな症状が出たら要注意
 2. 口腔機能低下症——オーラルフレイルが進むと診断される疾患

オーラルフレイルの初期症状やそのリスクについて学びましょう。

オーラルフレイルのセルフチェック——こんな症状が出たら要注意

オーラルフレイルの初期症状は、主に以下のとおりです。
 ・滑舌が悪くなった
 ・食べこぼしが増えた
 ・食事中むせることが増えた
 ・噛めない食品や食材が増えた
 ・口の中がよく乾燥するようになった など

なかなか自分では初期症状に気づきづらいため、家族も食事の場面で本人を観察するようにしましょう。もし変化に気づいたら、早めにかかりつけの歯科医に相談するアプローチが大切です。日頃から本人と家族がともに口腔内の状態を気にかけておくことが、早期発見につながります。

口腔機能低下症——オーラルフレイルが進むと診断される疾患

口腔機能低下症とは、咀嚼・嚥下・唾液の分泌などといった複数の口腔機能が複合的に低下した状態を指し、2018年(平成30年)に保険収載された比較的新しい疾患概念です。

先述した「口腔内の些細なトラブル」からさらに悪化した状態であり、以下7つの評価項目のうち3つ以上当てはまると口腔機能低下症と診断されます。
 1. 口腔衛生状態不良
 2. 口腔乾燥
 3. 咬合力低下
 4. 舌口唇運動機能低下
 5. 低舌圧
 6. 咀嚼機能低下
 7. 嚥下機能低下

口腔機能低下症がさらに悪化すると、低栄養やサルコペニア(※)に陥るリスクも高まり、食べる機能低下にとどまらず身体的フレイルにも影響するため注意が必要です。
(※加齢や栄養状態により筋肉量減少・筋力低下すること)

高齢者の口腔内で起きていること——5つの変化

高齢者は、加齢に伴い口腔内では複数の変化が同時に進行します。高齢者の口腔内でよく見られる変化とは、以下の5つです。
 1. 自浄作用の低下
 2. 虫歯や歯周病
 3. 入れ歯や治療跡
 4. ドライマウス
 5. 味覚変化

さまざまな口腔内の変化が複合的に影響を与えるため、まずはこれらの変化を理解してオーラルフレイルを予防しましょう。

自浄作用の低下・ドライマウス・虫歯・入れ歯トラブル

高齢者は、下表のような口腔内の問題を抱えています。

1. 自浄作用の低下

・細菌や汚れを洗い流す唾液の分泌量が低下している
・残った細菌が増殖して虫歯・歯周病にかかりやすい

2. 虫歯や歯周病

・高齢になると歯茎が下がって、歯の根元と歯茎の間にすき間ができるため、虫歯や歯周病リスクが高まる
・詰め物や被せ物をしている場合、その下で虫歯が進行している可能性もある

3. 入れ歯や治療跡

・入れ歯や治療跡ですき間があると、細菌が繁殖しやすい
・入れ歯の不適合から痛みが出て食事量が低下することもある

4. ドライマウス

・唾液量の減少や水分摂取量の低下によりドライマウスになりやすい
・薬を内服している場合、副作用によって唾液が減りドライマウスが進むケースもある

5. 味覚変化

・味を感じる器官である舌の表面に「舌苔(ぜったい)」がつきやすくなり、味を感じづらくなる
・偏った食生活や栄養不足でも味覚が変わることもある

本人や家族は高齢者が抱えるこれらの問題を理解して、かかりつけの歯科医に早めに相談しましょう。

なぜ口腔ケアが命に関わるのか——誤嚥性肺炎と全身疾患のリスク

高齢者の口腔に関する問題は、最初は些細なトラブルからはじまりますが、悪化するとさまざまな疾患につながるため、適切な予防と早めの対策が大切です。ここでは、口腔ケアと各疾患への影響について2点解説します。
 1. 誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが有効な理由
 2. 認知症・低栄養・うつとの関係

口腔ケアの重要性について学んでいきましょう。

誤嚥性肺炎の予防に口腔ケアが有効な理由

誤嚥性肺炎とは、口の中で繁殖した細菌が唾液や食べ物とともに気管や肺に入り炎症を起こす疾患です。「肺炎」の中でも高齢者の死因として大きな割合を占めています。

口腔ケアは、以下の理由により誤嚥性肺炎の予防に有効です。
 ・口腔内の細菌数を減らす
 ・口腔に残っている食べかすを除去する
 ・口腔内を湿潤に保ち、細菌の増殖を防ぐ など

とくに、就寝前に丁寧に口腔ケアすると、夜間の不顕性誤嚥(※)による肺炎リスクを低下させる効果が期待されています。
(※気づかないうちに誤嚥する状態)

認知症・低栄養・うつとの関係

人間の「食べる」「噛む」という行為は、脳の記憶部分である海馬の神経細胞を増やす効果があり、認知症予防にも効果があるとされています。そのため、口腔ケアは口腔機能を維持することだけではなく、以下の点にとっても重要な役割を担っています。

 ・十分な栄養摂取と全身の健康維持
 ・脱水の予防
 ・味覚の改善
 ・食事を「楽しむ」ことの維持
 ・社会関係の維持や外出意欲の向上

食事は、ただ栄養を摂取するためだけではなく、食べることによる「おいしい」「嬉しい」などの感情や、「他の人と一緒に食べて楽しい」といった社会関係の維持に欠かせません。つまり、口腔ケアはより安心して長く生活を続けていく活動や精神的健康に大きな影響を与えています。

口腔ケアに期待できる6つの効果——むし歯予防だけではない

口腔ケアで期待される効果とは、主に以下の6つです。
 1. 虫歯・歯周病予防
 2. 唾液分泌の促進
 3. 口臭の改善
 4. 味覚の改善
 5. 認知症の予防
 6. 誤嚥性肺炎の予防

こうした効果を実感するためにも、以下4つのポイントに沿って口腔ケアを実施しましょう。

1. どのタイミングで行う?

・毎食後や就寝前に実施する
・食前での実施も口腔内の乾燥予防に効果が期待できる

2. どこで行う?

・洗面所やベッドなどで実施する
・口腔ケア中に誤嚥しないように前屈姿勢がとれる場所で行う

3. 誰が行うか?

・本人、もしくは家族や介護職員で実施する
・定期的に口腔内の状態を観察しておく

4. 何を使うか?

・歯ブラシだけではなく、舌ブラシも視野に入れる
・入れ歯を使用している方は、スポンジブラシで歯茎のマッサージも実施する
・入れ歯のブラッシングや洗浄も行う

本人の口腔状態だけではなく生活環境や介護状況によっても異なるので、本人に合った口腔ケア方法を検討してみましょう。

口腔ケアには2種類ある——「器質的」と「機能的」を使い分ける

口腔ケアには、主に以下2つの種類があります。
 1. 器質的口腔ケア
 2. 機能的口腔ケア

それぞれのケア方法を理解して組み合わせることで、本人の健康維持により効果的でしょう。

器質的ケアの基本——歯ブラシ・フロス・舌ブラシの使い方

器質的ケアとは、歯磨きやうがいによって口腔内の汚れを取り除き清潔に保つケアです。下表のように、口腔ケアで使用する主な道具と使用時のポイントを押さえておくとより効果が期待できます。

道具

歯ブラシ

歯磨き粉

歯間ブラシ・フロス

使用方法

ポイント

・ヘッドが小さく、持ちやすいものにする
・硬さは「普通」がおすすめ

・フッ素1450ppm配合の歯磨き粉が有効
・少量の水でうがいに留めるとフッ素成分が流されにくい

歯と歯の間の清掃に使用する

本人の口腔状態によって使用する道具が異なるので、どういった道具が適切かをかかりつけの歯科医に相談しましょう。

機能的ケアの基本——口腔体操で噛む・飲み込む力を維持する

機能的ケアとは、口周りのマッサージや嚥下訓練など口腔機能の維持・向上を目指すケアです。機能的ケアを通じて、口の周囲や舌・顎の筋肉を衰えさせないようにします。日本歯科医師会で紹介されている「オーラルフレイル対策のための口腔体操」を実践すると、噛む力や飲み込む力が鍛えられるためおすすめです。
本人のできる範囲で無理なく継続することで、口腔機能低下の予防につながるでしょう。

【参考】日本歯科医師会:オーラルフレイル対策のための口腔体操

在宅での限界を感じたら——訪問歯科という選択肢

在宅で介護を続けていくうちに、かかりつけの歯科医へ定期的に通院したり、家族が逐一確認・サポートしたりするのにも、限界を感じることが多くあります。口腔機能の維持・向上に向けて、以下2つのサービスも検討してみましょう。
 1. 訪問歯科
 2. 介護サービスとの連携

それぞれのサービスについて解説します。

訪問歯科を利用するタイミングと相談の流れ

訪問歯科とは、歯科への通院が困難な高齢者の自宅や施設に歯科医師・歯科衛生士が訪問してケアや治療を行うサービスです。要介護認定を受けている場合は介護保険との併用も可能で、安心できる環境で口腔機能のサポートが受けられます。

訪問歯科を検討しはじめるタイミングは、主に以下のようなサインが表れた時です。
 ・通院が難しくなった
 ・義歯が合わなくなった
 ・食事のたびにむせるようになった など

口腔ケアや義歯の調整はもちろん、口腔機能低下症の診断や口腔衛生指導を受けることもできるため、在宅での口腔管理を専門職が継続的にサポートしてくれます。

訪問歯科を受ける流れとして、まずは担当のケアマネジャーや地域包括支援センターに相談して、訪問歯科対応の医療機関を紹介してもらいましょう。

口腔ケアと介護サービスを組み合わせる——連携のポイント

訪問歯科や訪問看護で指導された口腔ケアを無理なく継続するためには、デイサービスや訪問介護といった介護サービスと併せて活用すると効果がより高まります。

口腔ケアの内容をケアプランに組み込んでもらうためには、担当ケアマネジャーへ「食事中のむせが気になる」「食欲が低下している」といった具体的な状況を伝えることが重要です。ケアプランをもとに介護職員が適宜観察するとともに、必要に応じてケアマネジャーや歯科医と連携ができると、より実情にあったケアを取り入れられるでしょう。

まとめ:「年のせいだから」で終わらせないために

「親の食事量が減った」「食事でむせることが増えた」という状態に対して「年のせい」と放置してしまうと、オーラルフレイルや口腔機能低下症、ひいては本人の健康状態に大きく影響します。楽しく安心できる食事を続けるためにも、オーラルフレイルの初期症状を理解するとともに、本人にあった適切な口腔ケアを実施できるようアプローチすることが大切です。

なお、アイリンク・ケアでは口腔ケアを含む在宅生活全体の支援について、1人ひとりの状況に合わせた相談対応を行っています。「親が安心して食事するためにはどうすればいい?」と不安を感じている方は、ぜひお気軽にご相談ください。

 

介護について、施設について、