在宅診療の最前線|通院が難しくなったときの医療の選択肢
高齢化の進行や慢性疾患の増加を背景に、「病院に通う医療」から「生活の場で受ける医療」へと、医療の在り方は大きく変わりつつあります。その中心的な選択肢が在宅診療です。通院が難しくなっても、医師が定期的に自宅を訪れ、治療・管理・相談までを継続して行うことで、住み慣れた環境での療養を可能にします。一方で、在宅診療にはメリットだけでなく、医療体制の限界や家族のかかわり方、費用や緊急時対応など、事前に理解しておくべき点も少なくありません。
本記事では、在宅診療の基本的な仕組みから、訪問診療と往診の違い、メリット・デメリット、そして在宅での看取りの実際までを体系的に解説します。自分や家族にとって最適な医療の形を考えるための判断材料としてお役立てください。
在宅診療とは何か?

在宅診療とは、医師が定期的に自宅を訪問して、診察などを行う医療サービスです。在宅診療の基礎知識として、以下3点を解説します。
1. 在宅診療の基本的な仕組み
2. 訪問診療と往診の違い
3. 在宅診療が注目される背景
これから在宅診療を利用したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
在宅診療の基本的な仕組み
在宅診療とは、通院が困難な患者の自宅・施設に医師が定期的に訪問して、診察や医療ケアを行うサービスです。受けられるサービス内容は、以下のとおりです。
・診察
・薬の処方
・医療ケア
・患者や家族への療養上のアドバイス
・急変時の対応 など
基本的には月2回程度、あらかじめ決められた日時に医師が訪問します。「寝たきりでなかなか病院へ通えない」「できる限り安心できる環境で医療サービスを受けたい」という方におすすめです。
訪問診療と往診の違い
在宅医療のサービスには「訪問診療」と「往診」があります。「どちらも同じ意味ではないか?」と混同されやすいですが、下表のように明確な違いがあります。
| 訪問診療 | 往診 | |
| 目的 |
・患者の慢性的な病気や疾患管理 ・定時薬の処方 など |
急変(発熱や病状悪化)への対応 など |
|
頻度 タイミング |
定期的(月2回程度) | 突発的 |
| 料金 | 月額 | 1回ごと算定 |
訪問診療は計画的・定期的に行われるサービスに対し、往診は患者や家族からの緊急要請に応じて医師が対応する臨時的なサービスです。基本的には同じクリニックで定期的な訪問診療に加え、緊急時の往診・入院調整を24時間体制でサポートします。在宅診療のクリニックを利用する前に、訪問診療だけでなく往診体制も確認しておきましょう。
在宅診療が注目される背景
近年の高齢化社会の進展により、在宅診療が大きく注目されています。その理由は主に以下2点です。
1. 病院での長期入院・長期療養が難しくなってきている
2. 自宅や住み慣れた場所で療養したいというニーズが増えている
1つ目の背景に、病院での長期的な入院が難しくなってきている点です。高齢者人口のピークを迎える2040年にかけて、75歳以上の救急搬送は36%増、さらに85歳以上の救急搬送は75%増と見込まれています。つまり、病院が逼迫し「長く入院したくてもできない」という状況となるのです。
2つ目は、自宅などの住み慣れた場所で療養したいというニーズが増えている点です。安心できる環境で最期まで過ごしたいという患者が多く、希望や思いに沿った医療サービスを受けたい方が多くいます。
こうした背景を踏まえ、厚生労働省も「新たな地域医療構想」として在宅医療の重要性を強調しています。在宅診療は通院・入院に次ぐ「第三の医療」として注目されているのです。
在宅診療のメリット

在宅診療を受けるメリットは、主に以下5点です。
1. 通院の負担から解放される
2. 住み慣れた環境で安心して療養できる
3. 医療と介護の連携が取りやすい
4. 状態の変化に早期対応できる
5. ワンストップで医師に相談できる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
通院の負担から解放される
在宅診療では、病院までの移動や診察までの待ち時間などが不要になるため、患者・家族の負担が大幅に軽減されます。とくに、1人で外出が難しい方や慢性疾患・機能障害を抱える方にとって、通院準備から帰宅までの道のりは大きな負担となるでしょう。在宅診療なら、自宅で適切な診療・投薬が可能です。また、家族にとっても付き添いや送迎負担、通院対応で仕事を休むなどの必要がなくなり、介護負担も軽減されるでしょう。
住み慣れた環境で安心して療養できる
在宅診療は自宅など住み慣れた環境で受けられるので、精神的な負担も少なく安心して生活を続けられます。寝たきりなどで思うように動けなくなっても家族や友人に普段と変わらず会うことができ、治療や療養にも前向きになれる点も大きなメリットです。
とくに、認知症を抱える方は生活環境が変わると混乱しやすく、環境を変えない在宅診療は精神的な安定につながるでしょう。また、施設に入居している場合でも、ともに生活している他利用者とのかかわりや顔なじみのスタッフがそばにいるため安心です。
医療と介護の連携が取りやすい
在宅診療ではさまざまな職種との連携により、医療と介護が一体となってサポートする体制が整い、1人ひとりに応じたケアを提供しやすくなります。在宅で療養するうえで、以下のような職種の人たちがかかわります。
・ケアマネジャー
・訪問看護師
・訪問ヘルパー
・地域包括支援センター など
在宅診療の医師とともにこれら職種の人が、患者の病状や日常生活の状況・周辺環境を直接観察できるので、治療方針の決定や生活上のアドバイスもより的確になるでしょう。
状態の変化に早期対応できる
月2回程度の定期的な訪問により患者の病状悪化・状態変化をいち早く発見でき、重症化を防ぐのに効果的です。たとえば、糖尿病患者における足の傷や感染症の有無は早期発見が重要であり、医師が定期訪問することで早く発見しアプローチすることが可能です。また、24時間365日対応できる医療機関もあり、夜間や休日での急変時でも医療サービスが受けられる体制が整っているからこそ、安心して在宅生活を続けられるでしょう。
ワンストップで医師に相談できる
在宅診療では、担当医が患者の健康状態を包括的・継続的に把握するので、複数の病院を使い分ける必要がありません。心配事や体調変化をその場で相談・解決できるとともに、次の訪問に向けての治療方針も柔軟に調整できます。また、医師が患者の生活環境・生活習慣での注意点を具体的にアドバイスできる点は、病院での診察にはない強みといえるでしょう。
在宅診療のデメリットと注意点

安心できる環境で早期に対応・相談できる在宅医療ですが、一方で以下4点に注意しましょう。
1. 医療の範囲に限界がある
2. 家族への負担がかかる場合がある
3. 費用面での自己負担も発生する
4. 緊急時の対応に制約がある
それぞれの注意点について解説します。
医療の範囲に限界がある
在宅という生活環境では検査機器や治療設備に限界があり、高度な医療行為や手術・専門的なリハビリテーションまでフォローできません。超音波や心電図などの一部の検査は、機器を持ち込むことで可能な場合もありますが、CTやMRIといった大型機器を使った検査は受けられず病院や施設で行う必要があります。患者の病状によって専門的な治療が必要となった場合、病院への入院や施設入所を検討することとなるでしょう。
家族への負担がかかる場合がある
在宅診療において看護師が常時いるわけではないため、日常の介助や見守りは家族が担うことが多くなります。また、医師のみが診察で訪問するケースでは、患者のサポートは家族の役割となり、診療日時の調整や体力面での負担が発生するでしょう。さらに、家族で患者の病状理解や介護ケアの知識・技術の習得が必要です。知識や技術が不十分だと、適切なケアを提供できず患者・家族の両者ともストレスを感じることもあります。
費用面での自己負担も発生する
基本的に在宅診療では医療保険や介護保険が適用されますが、訪問の回数や内容によっては自己負担が発生し経済的な負担が強くなる可能性があります。一般的には病院への入院より経済的負担は少ないとされていますが、頻繁な訪問や特殊な医療処置が必要な場合は費用が増える点に注意が必要です。詳しい金額については、利用前に医療機関やケアマネジャーに確認しましょう。
緊急時の対応に制約がある
患者の急変時や災害発生といった緊急的な状況では、在宅診療だけでは対応できない場合があります。たとえば、24時間365日対応を謳(うた)っている医療機関でも、実際「オンコール(電話)のみの対応」や「緊急時のみの往診」としているところもあるため、利用前に確認が必要です。また、万が一の事態に備えて、救急搬送など訪問診療以外の手段も準備しておくとよいでしょう。
在宅での看取りは可能なのか

在宅診療では、定期的な診察だけではなく自宅での終末期・看取りのサポートも行っています。ここでは、在宅での看取りに関するポイントを3つ紹介します。
1. 在宅看取りの実態
2. 看取りに向けた準備とサポート
3. 家族の心構えと支援
今後在宅での看取りを検討している方は、ぜひ参考にしてください。
在宅看取りの実態
在宅診療では、自宅で終末期を過ごして最後まで看取ることが可能です。患者や家族の希望に応じて、在宅診療クリニックが24時間体制でサポートします。実際、下図のように2005年以降、終末期・看取り期を迎える場所に「自宅や介護施設」を選ぶ方の割合が増えてきています。
【参考】厚生労働省:令和6年11月8日 新たな地域医療構想について P.7
在宅での看取りを実現するためには「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング)」が不可欠です。アドバンス・ケア・プランニングとは、患者や家族の価値観を踏まえ今後の医療・療養方針をチームで共有するプロセスです。患者の望む最適な医療を提供することで、安心して最期を迎える準備ができるでしょう。
看取りに向けた準備とサポート
在宅での看取りにおいては、患者・家族の希望に応じた準備やサポートが大切です。とくに、訪問診療の医師や看護師、ケアマネジャー、介護職員などの連携は欠かせません。定期的な訪問診療だけではなく、「何をもって緊急・特変とするか」「本人がどうなったら誰につなげるか」などの緊急時のやり取りや入院調整も含めたサポートが必要です。
また、患者の病状によっては、がんの緩和ケアや疼痛管理、麻薬管理なども在宅で求められます。これらの管理も在宅で対応可能であり、安心した環境で苦痛を和らげながら最期を迎えられるような配慮が重要です。
家族の心構えと支援
在宅での看取りでは、患者本人を支える家族の心構えと支援がポイントとなります。もちろん医療・介護スタッフのサポートはありますが、患者への介護の中心となるのは家族です。連携チームは家族に対しても療養上の相談に応じて、介護方法や緊急時の対応といった環境整備に関するアドバイスを提供します。また、家族の身体的・精神的負担をできる限り軽減できるよう、訪問看護師やホームヘルパーといった専門的なサポートを受けられる体制を整えることで、患者・家族が安心できる看取りを実現できるでしょう。
まとめ:在宅診療は施設入所以外の現実的な選択肢

在宅診療は、施設入所だけではない道があることを示しています。通院・入院に次ぐ新たな選択肢として、在宅診療を検討してみましょう。自分・家族が「どのように生活したいか」「どう最期を迎えたいか」を考えるとともに、在宅診療を正しく理解することが大切です。
なお、アイリンク・ケアでは、ご利用者・ご家族からの医療・介護相談も常時受け付けております。自宅でのケア方法や今後の対応など、少しでも悩み・不安がありましたらお気軽にご相談ください。