認知症は治るのか? 国内外の治療最前線と、改善が期待できる対策
高齢化社会が進む日本では、高齢者の5人に1人は認知症になるといわれています。さらに今後増えることが見込まれており、認知症対策は喫緊の課題です。ご家族に高齢者がいる方のなかには「認知症は治る病気なの?」「どうすれば改善できるの?」と不安を感じている方も多いでしょう。
この記事では、認知症の治療における基礎知識や早期発見のポイントについて解説します。改善事例や日常でできるケア・行動もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。
認知症は本当に治るのか?

結論からいうと、現代の医学では認知症は完全に治りません。ただし、進行を緩やかにしたり症状をコントロールしたりすることで、穏やかな生活を続けられるようにすることは可能です。ここでは、認知症を改善・回復させるためのアプローチ方法や、認知症治療の現状について解説します。
認知症の基礎知識や初期症状について知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
関連記事:認知症とは? 初期症状から種類・治療法まで徹底解説
治る可能性があるケースと改善が期待できる症状
認知症には「治る可能性がある認知症」と「治らない認知症」があり、種類によってその症状や治療方法が異なります。主な認知症の特徴と症状は、下表のとおりです。
| 種類 | 主な症状 | 完治するか? |
|---|---|---|
| アルツハイマー型認知症 | ・記憶障害 ・見当識障害 など |
完治しない |
| 血管性認知症 | ・記憶障害 ・判断力障害 など |
完治しない |
| レビー小体型認知症 | ・幻視 ・パーキンソン症状 など |
完治しない |
| 前頭側頭型認知症 | ・人格の変化 ・同じ行動を繰り返す常同行動など |
完治しない |
| 正常圧水頭症 | ・歩行障害 ・排尿障害 など |
手術により完治する可能性がある |
| 慢性硬膜下血腫 | ・頭痛 ・片麻痺 など |
手術により完治する可能性がある |
正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などに起因する認知症の場合、手術により認知症状の改善が可能です。まずは認知症の種類やそれぞれの特徴を理解しましょう。
国内外の治療トレンドと最新研究
認知症治療の主な役割は、完治ではなく進行を抑えて穏やかな生活を続けられるようにする点です。近年における治療トレンドや最新の研究は、下表のとおりです。
| 治療・検査方法 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 抗アミロイドβ抗体薬 | ・アルツハイマー型認知症の原因物質を取り除く ・認知機能低下の進行抑制が期待される ・点滴により投与する |
| MCI(軽度認知障害)スクリーニング検査プラス | ・脳内に原因物質が蓄積されやすいかを調べる ・発症・重度化する前に気づくことで、その後の進行を抑える |
| BrainSuite(ブレインスイート) | ・記憶をつかさどる「海馬」の体積をMRIで測定する ・萎縮度を解析し、認知症の早期発見や生活習慣のアドバイスにつなげる |
| AIやデジタル機器を活用した診断 | ・立方体を模写した画像をAIが診断する ・老化による歪みか、認知症の前兆かを判別する |
これまでの治療は症状緩和が中心でしたが、原因物質に直接働きかける新薬「レカネマブ」が登場するなど、治療の選択肢は広がっています。もしかしたら認知症かもしれないと感じたら早めに専門機関を受診しましょう。
【参考】
・東京都健康長寿医療センター:アルツハイマー型認知症の新しい薬ができました
・MCIスクリーニング検査プラス:MCIスクリーニング検査プラス
・ブレインスイート:BrainSuite(ブレインスイート)公式サイト
・国立研究開発法人 国立⾧寿医療研究センター:認知症の進行リスクを高精度で予測するモデルの開発
認知症の治療法の種類

認知症の治療は、大きく「薬物療法」と「非薬物療法」の2つに分けられます。どちらか一方ではなく、両方を組み合わせることが重要です。
薬物療法(抗認知症薬)の役割と効果
薬物療法は、脳の神経伝達物質を調整することで、中核症状・周辺症状の進行を緩やかにしてその人らしく生活できることを目的としています。代表的な抗認知症薬は、下表のとおりです。
| 一般名 | 作用 | 対象 | 服用方法 |
|---|---|---|---|
| ドネペジル※ | (アセチル)コリンエステラーゼを阻害する | 軽度~重度 | 錠剤、細粒など |
| ガランタミン | (アセチル)コリンエステラーゼを阻害する | 軽度~中度 | 錠剤、内服液など |
| リバスチグミン | (アセチル)コリンエステラーゼを阻害する | 軽度~中等度のアルツハイマー型認知症 | パッチ(貼付剤) |
| メマンチン | グルタミン酸を抑制する | 中度~重度 | 錠剤、口腔内崩壊錠 |
※レビー小体型認知症にも使用可能
いずれもアルツハイマー型認知症の進行を緩やかにする効果が期待されています。ただし、服用にあたっては以下の点に注意が必要です。
- 吐き気やめまいなどの副作用が出る場合がある
- 他の内服薬や市販薬、サプリメントとの飲み合わせに注意が必要
- 飲み込む力が弱い場合は、剤形(錠剤・ゼリー・貼付剤など)を工夫する必要がある
高齢者は持病などで複数の薬を服用しているケースが多いため、市販薬やサプリメントといったご自身で購入できる薬との飲み合わせにも注意が必要です。服用前には医師や薬剤師に必ず確認しましょう。
非薬物療法の重要性
薬だけでなく、薬物療法も並行することが重要です。非薬物療法は、認知症を抱えた方が持っている能力や機能を最大限に生かして、不安や混乱を抑え穏やかに生活することを目的としています。
主な非薬物療法は、以下のとおりです。
- リハビリテーション(理学療法・作業療法など)
- 回想法(昔の思い出を語り合う)
- 音楽療法(馴染みのある歌を歌う・聴く)
- アロマセラピー
- ペットセラピー など
ご本人の生活歴や好みに合わせ、本人の希望や意思を尊重することがポイントです。
認知症の早期発見が重要 受診すべきタイミングと医療機関の選び方
早期発見のために、以下の行動変化が見られたら注意しましょう。
- もの忘れがひどい、探し物が多い
- 判断・理解力が衰える
- 時間・場所がわからない
- 性格の変化(怒りっぽい、無関心など)
- 不安感が強くなる
- 意欲の低下
当てはまる行動がある場合は、ご家族だけで抱え込まず以下の医療機関や窓口に相談しましょう。
主な相談先
- かかりつけ医
- もの忘れ外来
- お住まいの市区町村役所
また、介護予防支援や総合的な相談支援を行う「地域包括支援センター」でも相談を受け付けています。福祉や医療など、さまざまな制度を横断してサポートしてくれる窓口なので、「どこに相談したらよいかわからない」という方は、まず地域包括支援センターに相談してみるとよいでしょう。
医療機関での治療と並行して重要になるのが、日々の暮らしを支える生活環境と介護サポートです。住み慣れた地域で自分らしい生活を長く続けるためには、医療・介護などの支援をまとめて受けられる環境が必要です。アイリング・ケアでは、認知症を抱えた方でも安心できる住まい・サービスを提供しています。認知症だけではなくこれからの介護について悩みを抱えている方は、ぜひご相談ください。
認知症の症状改善が期待できるケア

日々の生活習慣や周りのかかわり方を変えるだけで、症状が落ち着くケースも少なくありません。今日からできるケア方法・行動は、以下のとおりです。
- 適度に有酸素運動を行う(散歩など)
- 規則正しい生活リズムを整える
- 栄養バランスのとれた食事をとる
- 社会交流をもつ(デイサービスや地域の集まりに参加)
活動量が減り、人との関わりがなくなると、認知機能の低下は加速します。また、転倒や骨折による入院など急激な環境変化も悪化の大きな要因となります。生活環境や人間関係などが極力変わらないよう、日々の運動・食事・睡眠が重要です。
ただし、介護者が頑張りすぎて心身ともに疲れ切ってしまうと、いわゆる「介護疲れ」による共倒れのリスクも高まります。介護保険サービスやケアマネジャーに相談しながら、無理のない範囲でサポートを続けていきましょう。
周辺症状(BPSD)への治療

認知症には、記憶障害などの症状に加え、周辺症状(BPSD)と呼ばれる、徘徊や暴言・暴力行為など周りの方々に危害を与えかねない行動が現れることがあります。これらは環境や心理状態に大きく影響されるため、適切なケアで改善が期待できます。
| 症状 | 対応例 |
|---|---|
| 徘徊 | ・規則正しい生活をする ・外出時には身分証や連絡先を携帯してもらう ・必要に応じてGPSや見守りセンサーの導入を検討する |
| 暴言・暴力 | ・危険を感じる場合は物理的・心理的に距離をとる ・日頃の関わりの中で、否定的な言葉がけや自尊心を傷つける対応を避ける ・一人で抱え込まず、専門職に相談する |
| もの盗られ妄想 | ・まずはご本人の訴えを聞く(「盗られてない」などすぐ否定しない) ・一緒に探す姿勢を見せて安心してもらう ・物の置き場所をわかりやすく整えるなど、生活環境を工夫する |
周辺症状への治療は、非薬物療法を中心としてアプローチします。ただし、長期的に症状が見られたり周りの人が支えきれなくなったりした場合には、薬物療法も視野に入れましょう。
認知症を抱えた人が徘徊する理由や具体的な対策をさらに知りたい方は、以下の記事もチェックしてください。
関連記事:認知症になるとなぜ徘徊してしまうか知ってますか?
認知症治療の成功事例・体験談
認知症を完治させる手段はまだ確立されていませんが、ご本人にあった服薬と周辺環境を整備することで進行を緩やかした事例は数多くあります。
ケース1:内服薬の支援・調整により症状が安定した例
| 状況 | ・82歳、女性 ・初期の認知症として診断される ・内服薬を開始したが、飲み忘れをしてしまうことが増えた |
|---|---|
| 取り組み内容 | ・ご家族やヘルパーの支援を受けながら、お薬カレンダーやボックスを活用し、飲み間違いを防ぐようにした ・かかりつけ医や薬剤師に内服薬の確認・調整を行った |
| 改善後 | ・適切な服薬ができるようになり、症状が安定した ・服薬確認を通じて話せる人が増えたおかげで、表情が明るくなった |
ケース2:生活環境の整備で不安が軽減した例
| 状況 | ・89歳、女性 ・真夏でも洋服を何枚も重ね着してしまう様子が見られた ・ご家族が注意すると「洋服が盗られるの!」と怒ってしまい、対応に困っていた |
|---|---|
| 取り組み内容 | ・ケアマネジャーやヘルパーが介入し、ご本人の要望や思いを確認する ・「タンスにしまわれている洋服がなくなる気がして不安」と思っていることがわかった ・洋服を目に見えるハンガーラックで管理するようにした |
| 改善後 | ・いつでも洋服が見える環境になり、洋服の重ね着はなくなった ・季節にあった洋服でおしゃれできるようになり、周りの方に褒められて笑顔が増えた |
まとめ:認知症は早期対応が大切
認知症は現時点では完全に治る病気ではありませんが、その人に合った適切な治療やケアによって、進行を緩やかにし、穏やかな生活を続けることは十分に可能です。認知症の種類や特徴を理解しておくことで、よりスムーズに適切な支援につなげられるでしょう。
また、認知症を抱えるご本人だけでなく、ご家族の負担軽減も非常に重要です。「もしかして認知症かもしれない」と感じたら、日々の生活の中でできるケアを実践するとともに、早期の受診と相談を心がけましょう。一人で抱え込まず、医療・介護の専門職や地域の相談窓口を上手に頼りながら、安心できる暮らしを一緒に考えていくことが大切です。