ICFって何?現場で役立つシンプルな理解方法
医療や介護の現場でよく聞く言葉の一つにICFがあります。
「難しそう」「専門家だけが使うもの」と思われがちですが、実は生活を支える誰にとっても役に立つ、とてもシンプルな考え方です。
この記事では、図を使いながらICFを世界一わかりやすく紹介します。
ICF(国際生活機能分類)とは?
身体 活動 環境の三つで人を見る国際的な視点
ICFは、人の健康状態を「身体」「生活の動作」「環境」の三つで整理して理解するための国際的なものさしです。
つまり、その人が暮らしやすくなるための地図のような存在です。
従来は、病気や障害ど「できない部分」に注目しがちでした。しかし、それだけでは本当の困りごとや、その人が持つ力が見えません。
暮らし全体を見渡し、どこに支援のヒントがあるのか整理するためにICFが生まれました。
ICFの3つの主要な構成要素
ICFは、人の生活機能を理解するために、大きく分けて「健康状態」「心身機能・身体構造、活動、参加」「環境因子、個人因子」という3つの主要な構成要素を持っています。これらの要素は互いに影響し合い、複雑に絡み合いながら、その人の全体的な生活機能を形作ります。それぞれの要素を理解することで、より包括的かつ個別化された支援が可能になります。
「健康状態」は、病気や外傷だけでなく、加齢や妊娠なども含めた、人が持つ健康に関するあらゆる状態を指します。「心身機能・身体構造、活動、参加」は、身体の機能や構造、日常生活における活動、そして社会的な活動への参加を評価します。「環境因子」は、住居、交通手段、社会的な支援など、個人の周囲にある物理的、社会的、制度的な要因を指します。「個人因子」は、年齢、性別、教育、ライフスタイルなど、個人が持つ固有の特性を指します。

ICFの三つの視点を図解で理解する
三つは互いに影響し合う
ICFの構造はとてもシンプルです。
人の生活を、次の三つの視点で整理します。
身体の状態、生活でできることや参加したいこと、周囲の環境です。
三つの関係を図にすると次のようになります。
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【ICFの基本図】
(人)
↓
身体の状態
↓
できること・したいこと
↓
環境の支え・障害
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この三つは常にお互いに影響しあっています。
身体だけを見ても、環境だけを見ても、その人の生活は理解しきれません。三つを重ねて考えることで、困りごとの背景が明確になり、支援の方向性が見えてきます。
三つの視点をやさしく解説
①身体機能・身体構造
体や心の状態を示します。
例
・腰が痛い
・記憶が弱くなってきた
・手足に力が入りにくい
②活動・参加
生活の中でできること、挑戦したいことです。
例
・歩く、料理をする
・買い物に行く
・地域の行事に参加したい
③環境因子
周りの状況や道具、人の支援などを含みます。
例
・家族のサポート
・手すりや段差
・働く場所や地域の理解
ICFを使うと「できない」が「できる」に変わる
原因を分解することで解決策が見つかる
ICFが大切にするのは「一つだけ見ても解決しない」という視点です。
例えば「外に出られない」という状態でも、その理由はさまざまです。身体の痛み、外出への自信の低下、手すりがないなど環境の不備が影響していることもあります。ICFでは三つの視点を整理することで、何を改善すれば「できる」に近づけるのかが見えてきます。
ある方のケースでは、足の痛みはあるものの、ゆっくり歩くことは可能でした。しかし靴が合っていないことや手すりの不足が外出を妨げていました。靴を変え、環境を整えることで外出できるようになり、生活の幅が広がりました。
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【ICFを使わない場合】
・足が弱い
・外出は難しい
【ICFで整理すると】
身体
・足に痛みがある
活動
・ゆっくりなら歩ける
環境
・靴が合っていない
・手すりが足りない
→ 靴を変え、手すりを設置すると外出の可能性が広がる
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このようにICFは「できない理由」を探すためではなく「できる方法」を見つけるための道具です。
介護・医療・リハビリの現場で役立つ理由
共通言語としてチーム支援を強化する
ICFは、ケアプラン作成やリハビリ計画を考える際の共通言語として非常に役立ちます。身体だけでなく、生活動作や環境をあわせて見ることで、利用者の強みがわかりやすくなり、適切な支援が組み立てやすくなります。また、職員同士が同じ視点で利用者を理解できるため、チームでの支援がスムーズに進みます。
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【ICFで支援が進む流れ】
状態を知る
↓
生活の困りごとを整理
↓
環境でできる工夫を探す
↓
できることを広げる
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ICFの活用事例:介護・リハビリ現場での実践
事例1:退院後の生活を支えるICF
病院での治療を終え、退院される方が自宅での生活にスムーズに移行できるよう、ICFは非常に有効なツールとなります。退院前に、患者さんの健康状態、心身機能、活動、参加、環境因子、個人因子を詳細に評価します。例えば、患者さんが自宅で安全に移動できるか、自分で食事を準備できるか、必要な医療機器を操作できるか、家族や地域の支援体制は整っているか、などを確認します。
これらの情報を基に、患者さん一人ひとりに合わせた退院支援計画を作成します。例えば、手すりの設置、訪問看護サービスの利用、リハビリテーションの継続、地域のボランティア団体の紹介など、具体的な支援策を検討します。ICFを用いることで、患者さんのニーズを的確に把握し、退院後の生活を安心して送れるようにサポートすることができます。
事例2:リハビリテーションにおける目標設定
リハビリテーションの目標設定において、ICFを活用することで、単に機能回復を目指すだけでなく、患者さんが本当にやりたいこと、参加したい活動に焦点を当てることができます。従来の目標設定では、例えば、「歩行能力の向上」や「筋力増強」といった機能的な側面が重視されがちでした。しかし、ICFを用いることで、「地域のお祭りに参加できるようになる」「孫と公園で遊べるようになる」といった、患者さんの生活に密着した目標を設定することができます。
患者さんの希望や価値観を尊重し、それに基づいて目標を設定することで、リハビリテーションへのモチベーションを高めることができます。また、目標達成に向けた具体的な計画を立てる際にも、ICFの枠組みを活用することで、患者さんの強みや課題を明確にし、より効果的なリハビリテーションを提供することができます。
事例3:三幸福祉カレッジでのICF教育
三幸福祉カレッジでは、介護福祉士やケアマネジャーなどの介護・福祉従事者を育成する過程で、ICFの考え方を積極的に取り入れています。ICFを学ぶことで、学生は、利用者を単なる介護の対象としてではなく、一人の人間として、その全体像を理解できるようになります。利用者の健康状態、心身機能、活動、参加、環境因子、個人因子を総合的に把握することで、より個別化された、質の高い介護サービスを提供できるようになります。
また、ICFは、多職種連携を促進するための共通言語としても機能します。学生は、ICFを学ぶことで、医師、看護師、リハビリ専門職など、様々な専門職との連携をスムーズに行えるようになります。三幸福祉カレッジでは、ICFを教育の中心に据えることで、利用者のQOL(生活の質)向上に貢献できる人材を育成しています。
ICFの評価とコード 専門家による分析
ICFコードの構造と読み方
ICFコードは、アルファベットと数字の組み合わせで作られており、人の状態をわかりやすく整理するために使われます。
アルファベットは次の内容を表します。
・b 心身機能
・s 身体構造
・d 活動と参加
・e 環境因子
後ろにつく数字は、その項目がどの程度うまくいっているか、あるいは困りごとがどれくらいあるかを示します。数字が大きいほど、困難の度合いが強い状態です。
例えば「b210.2」は「注意する力に中くらいの困難がある」という意味です。
「b」は心身機能、「210」は注意機能、「.2」は中等度の困難を表しています。
ICFコードを使うことで、多職種のスタッフが同じ言葉で情報を共有できます。
その結果、利用者の状態理解がそろい、支援の話し合いがスムーズになります。
評価点の意味と活用方法
ICFは状態を数値で評価することができます。
通常は0から4までの五段階で、次のように表します。
0 問題なし
1 軽度
2 中等度
3 重度
4 完全な困難
この数値を使えば、利用者の状態を客観的に比べたり、変化を追ったりできます。
たとえば、リハビリ前後で評価点を比べると、どれだけ改善したかがひと目でわかります。
また、複数の利用者の評価点を比べれば、どの方への支援を優先すべきか判断しやすくなります。
ICFの評価点は、計画づくり、支援の実施、効果の見直しまで、すべての段階で役立つ指標です。
ICFを活用したチームアプローチ
ICFは、医療や介護のさまざまな専門職が共通で使える「共通言語」の役割を果たします。
医師、看護師、リハビリ職、介護職がそれぞれの視点から利用者を見て、ICFを使って状態を整理し共有します。
・医師は医学的な視点
・看護師は日常生活の視点
・リハビリ職は機能回復の視点
・介護職は生活支援の視点
このように、それぞれの立場から評価した内容をICFコードで共有することで、チーム全員が同じ理解を持つことができます。
情報が統一されると、重複した支援を減らし、必要な支援を効率よく提供できます。
ICFはコミュニケーションを円滑にし、チーム力を高めるために欠かせないツールです。
まとめ
ICFは特別な専門知識ではありません。
大切なのは、人の生活を「身体」「活動」「環境」の三つでまるごと見ていくという視点です。
この見方が身につくと、支援の方向性が驚くほど明確になり、利用者の生活の質を高める手助けになります。
ICFを活用することで、利用者のニーズを的確に把握し、個別化された支援計画を立てることができます。また、多職種連携を促進し、チーム全体で利用者をサポートすることができます。ICFは、利用者のQOL(生活の質)向上に貢献するための強力なツールです。今日からICFを学び、実践に取り入れることで、より質の高い支援を提供できるようになりましょう。継続的な学習と実践を通じて、ICFを深く理解し、日々の業務に活かしていくことが重要です。
ICFを味方につけて、介護・リハビリの現場における支援の質を飛躍的に向上させ、その人らしい暮らしを支える視点を育てていきましょう。
