【書籍レビュー4月】『感情労働の未来』

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書籍基本情報

| 書名 | 感情労働の未来──脳はなぜ他者の”見えない心”を推しはかるのか? |
| 著者 | 恩蔵絢子(脳科学者・東京大学大学院特任研究員) |
| 出版社 | 河出書房新社 |
| 発売日 | 2025年10月17日 |
| 価格 | 税込2,090円 |
| ページ数 | 244ページ |

なぜこの本が売れているのか

紀伊國屋書店新宿本店の介護書籍ランキングで堂々の1位を獲得し、発売直後から朝日新聞・読売新聞・東洋経済オンラインなど多数メディアに取り上げられ、書店での売り切れが続出した話題作です。著者・恩蔵絢子さんの前著『脳科学者の母が、認知症になる』はNHKスペシャルでも特集されており、脳科学と介護の交差点に立つ研究者として大きな注目を集めています。

この本が伝えること

「感情労働」とは何か

介護士の仕事を振り返ってみてください。何度も同じ話を繰り返す利用者さんに、嫌な顔をせず笑顔でうなずく。理不尽なクレームを受けても穏やかに対応する。本当は疲れていても、明るく声をかける──これがまさに「感情労働」です。

本書では、こうした「自分が本当に感じていることとは違う感情を表出して、相手の感情を動かすこと」を感情労働と定義し、脳科学の視点から丁寧に分析しています。

脳科学が示す「感情の正体」

本書の核心は、感情労働が単なる「我慢」や「気合い」の問題ではなく、脳の働きに深く根ざしているという点です。著者は専門知識を平易な言葉で解説しており、難しい神経科学の話もスムーズに読み進められます。

特に注目すべきは感情的知性(EQ)の概念です。感情的知性の高い人とは、自分の感情をよく知り、他者の感情を理解し、その理解をもとに周囲との関係を良い方向に変えられる力を持つ人のこと。そしてこのEQが高い介護士・看護師ほど、感情労働においてストレスを感じにくく、離職率も低く、幸福度が高いという研究結果が示されています。

「抑圧」から「理解」へのシフト

本書が特に介護従事者に刺さるのは、感情労働をネガティブなものとして終わらせず、「他者を理解する感情的知性の可能性」として再定義している点です。笑顔を貼り付けて感情を抑圧するのではなく、利用者さんの”見えない心”を推しはかる力こそが、AI時代に人間にしかできないケアの本質だ、というメッセージは力強く響きます。

介護現場への具体的な気づき

読者レビューの中に、こんな声がありました。「表層演技」と「深層演技」という概念を知って、自分の現場での感情の使い方をメタ認知できるようになった、と。

– 表層演技:内心は疲れているが、笑顔だけを作って対応する(消耗が大きい)
– 深層演技:利用者さんの立場や感情を本当に理解しようとする(充実感につながる)

この違いを意識するだけで、日々のケアへの取り組み方が変わるかもしれません。

読んでほしい人

– 感情的に消耗を感じている介護士・看護師・ケアマネジャー
– 「なぜ自分はこんなに疲れているのか」の答えを探している人
– AIや人手不足が進む中で、人間にしかできないケアの価値を再確認したい人

まとめ・総評

「なぜこんなに疲れるのか」という問いに、感情論でなく脳科学という根拠をもって答えてくれる一冊です。読後に感じるのは「自分の仕事は、実は高度な知的営みだった」という静かな誇りです。タイトルから学術書を想像する方も多いと思いますが、「一気に読めた」「読みやすくて付箋だらけになった」という読者の声が物語るように、介護の現場で働く方にも非常に読みやすい構成になっています。

処遇改善や制度改正の議論が続く今こそ、自分たちの仕事の本質を脳科学の言葉で再確認するために、ぜひ手に取ってみてください。