【介護時事】介護業務 1万時間削減
| 豊田工業高等専門学校(豊田高専)発スタートアップのNAGARA(名古屋市)は人工知能(AI)で介護記録を自動作成するシステムを開発した。介護士が利用者と話すだけで済み、紙やパソコンに書き込む作業が不要となる。 業務時間を年間1万時間削減し、職員の事務負担を半減させる。高専で培った高度なプログラミングを力を使い、社会課題解決につなげる動きが広がっている。 |
日本では超高齢化が深刻化し、介護現場に求められるサービス量と質は年々高まっている。だがその一方で、介護職員が直面する”記録業務の膨大な負担”が、ケアの質や職員の働き方を圧迫する構造的な問題となっていた。
こうした課題に挑むのが、豊田高専発のスタートアップ、NAGARAだ。彼らが提供する音声AIサービス「ながらかいご」は、介護士が利用者と会話するだけで、ケア記録や報告書、議事録などの事務書類を自動で作成。手書きやタブレット入力の必要がなくなり、年間約1万時間の事務作業削減を見込む。
なぜ「1万時間削減」が可能なのか
調査によれば、ある施設では介護業務時間の約33%が記録・共有業務に割かれていた。
記録項目は多岐にわたり、排泄・食事・バイタル・異常の有無・利用者の様子などを複数の帳票に記入。介助後すぐにタブレットに向かう姿は、現場の“当たり前”となっていた。
「ながらかいご」は、この事務作業を“口頭での報告”だけで完結させる。介護士が利用者と話した内容をAIが聞き取り、即時記録に変換。さらに議事録作成や報告書の自動生成、介護記録検索機能も備え、高齢者介護の“見える化”と“効率化” を同時に実現するという。
介護の質と働き方にもたらす影響
この仕組みの導入によって、職員は記録の後回しから解放され、利用者さんに向き合う時間が増える。また、記録漏れ、書き忘れ、二重入力などのヒューマンエラーも減少し、ケアの安全性と品質も向上する可能性がある。
さらに、事務作業の削減は残業時間の抑制にもつながり、離職率の改善、人材定着にもプラスに働く。現在、NAGARAは実証実験を複数施設で進めており、介護DX(デジタルトランスフォーメーション)の「成功例」として注目が集まっている。
ただし、万能ではない ― 現場のリアルな壁/今後の課題
とはいえ、AIだけで全てが解決するわけではない。記録される内容の正確性やプライバシー管理、音声認識の精度、利用者の同意取得、システム導入コストなど、現場にはクリアしなければならないハードルもある。
また、AIで効率化できるのはあくまで“記録・報告書作成”など間接業務であり、直接ケアの業務そのものは人の手が必要だ。AIはあくまで “補助ツール” であり、現場の価値を高めるための“味方”にすぎない。
まとめ― 介護の未来を変える、小さな革命
NAGARAの試みは、単なる“便利ツール”の導入ではない。
- 介護現場の時間と労力の再配置
- 人を中心にしたケアの回復
- スタッフの働きがいや職場環境の改善
を同時に目指す、構造的な“現場革命”の一歩である。
「記録に追われてケアできない」そんな現場から、
「利用者と真剣に向き合える」現場へ
NAGARAのAIは、介護の未来にとって小さくない希望。