【在宅緩和ケア】最高の看取りに必須なACP会議のやり方
最後の瞬間を自宅で、家族と共に。
弊社訪問看護ステーションでも、たくさんの末期がん患者の看取りを経験してきました。
特に末期がんの患者との向き合い方はやはり専門的知識・経験が必要です。
訪問看護ステーション立ち上げから10年。
介護現場における看取りの在り方、特に在宅緩和ケアについて少し深く語ってみようと思います。
在宅緩和ケア(ホスピスケア)
在宅緩和ケアとは、患者の生活の場である「すまい」において実施されるホスピスケアのことです。
「すまい」は、患者や家族が最も安らげる場であり、自分たちの意思を最大限実現できる場所であり、最後の日々を「すまい」で過ごしたいと願う患者や家族を支援して、その希望を叶えるためのケアである。
在宅緩和ケアの基本的な考え方
在宅緩和ケアは、患者が住み慣れた場所で、できる限り快適に過ごせるようにサポートする医療ケアです。単に延命治療をしないだけでなく、患者と家族の意思を尊重し、心身の苦痛を和らげることを目的としています。
病院での緩和ケアとの違い
病院での緩和ケアは、医療施設内で専門スタッフによる手厚いケアを受けられるメリットがありますが、環境の変化によって患者のストレスになる場合があります。在宅緩和ケアは、自宅という安心できる環境で、家族と共に過ごせる点が大きな違いです。
在宅緩和ケアを選択するメリット
在宅緩和ケアを選択することで、患者は住み慣れた環境で、家族との時間を大切にしながら最期を迎えることができます。また、医療費の負担を軽減できる場合や、患者様の意思を尊重したケアを受けやすいというメリットもあります。
最高の看取りを実現するために
看取りと言うのはその方の人生の最終地点に行きつくまでの最期の「ケア」と捉えています。
「最高の看取り」と言ってもその人その人が何が最高かは変わってきますし、たとえ患者本人が自宅で最後過ごしたいと思っても、周りの人のサポートや専門性がなければなかなか実現できません。
「最高の看取り」に近づけるために必要な要素を取り上げてみたいと思います。
患者の意思を尊重する(本人、家族の意識決定プロセス)
患者自身の「どのように最終期を迎えたいか」という意思を尊重することが何よりも重要。
家族も含めて十分な検討をし希望に基づいたケアを計画することで満足度の高いケアを提供できます。
ACPという言葉があります。あとで詳しく説明しますが、どんな医療やケアを患者本人が望むかを事前に話し合い、計画を立てるプロセスのことです。まだまだ知っている人が少ないと思われますし、実際なかなか実施できていないことのほうが多いのが現状です。
ただ、緩和ケアにとって重要なポイントとなる要素です。
専門チームのサポート
医師、看護師、ソーシャルワーカー、心理カウンセラー、薬剤師など、多職種の専門家による支援が重要。
身体的な痛みだけではなく全人的苦痛(身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインなど)を和らげていくために、多角的にアプローチする必要があるため、多職種間の連携が本当に必要です。
家族へのサポート
在宅緩和ケアは、患者だけでなく、ご家族にとっても負担のかかる場合があります。ご家族の負担を軽減しながら、患者を支えていく体制を整えることが大切です。
例えば、レスパイトケアを利用して、ご家族が一時的に休息を取れるようにすることも重要です。また、介護に関する情報提供や相談窓口の案内なども積極的に行い、ご家族が安心してケアを続けられるようにサポートします。
家族が無理なくケアに関わるために、以下のようなサポートが必要です
- 心理的なケアや相談の場を提供する
- ケア技術に関するトレーニング
- 疲れを軽減するためのレスパイトケア(一時的な休息サービス)
薬
薬は、在宅緩和ケアにおける「痛みや問題を乗り越え」という基本的な目標を達成するための中心的な存在です。また、患者や家族の生活の質(QOL)を向上させ、安心して自宅での治療を続けられるよう支える大きな役割を果たしています。在宅緩和ケアでは、薬を正しく使用し、専門職のサポートを受けながら患者の希望に沿ったケアを実現することが大切です。
緊急時の対応
容体が急変した場合の対応を事前に確認しておく必要があります。24時間対応の訪問看護ステーションや、かかりつけ医との連携が重要です。緊急連絡先を明確にし、救急搬送が必要な場合の対応手順なども事前に確認しておきましょう。夜間や休日に容体が急変した場合の連絡体制も整えておくことが大切です。また、患者様の状態に合わせて、救急医療キットや酸素吸入器などの必要な医療機器を準備しておくと良いでしょう。万が一の事態に備えて、ご家族が冷静に対応できるように、事前にしっかりと準備を整えておくことが重要です。
環境整備
日々快適に過ごせる環境を整えることも大切です。
- ベッドや車いすなどの医療機器の導入
- 自宅内のバリアフリー化
- 緊急時に迅速に対応できる連絡体制の構築 などなど
地域との連携
地域の医療機関や介護サービス、ボランティア団体と連携することで、必要な支援を柔軟に受けられる環境を作ります。地域で支える体制が、患者と家族にとって大きな安心につながります。
「最期」を支える(変える)ACP会議(人生会議)
ACPという言葉を知っていますか?
人生の最期をどこで迎えるのか。どんな医療を受けるのか、誰に受けるのか、家族とどうかかわるのか…などなど自分らしい最期を迎えるための選択肢は患者本人にあります。
死が迫ってきている人が最期の時間を医療や介護、家族のサポートを得て過ごす時に、患者本人がどんな望みがあり意向があるのかを日頃から情報収集することが在宅緩和ケア成功の鍵であり、人生の最終段階において、ご自身が望む医療やケアを受けるための重要な手段です。人生の最終段階における医療やケアについて、事前に話し合い、意思決定を支援するプロセス(ACP)が今注目されています。
ACPとは
将来の変化に備え、将来の医療及びケアについて、患者を主体にそのご家族や近しい人、医療、ケアチームが繰り返し話し合いを行い患者の意思決定を支援するプロセスのことです。日本語では「人生会議」とも呼ばれています。
患者の人生観や価値観、希望に沿った、将来の医療及びケアを具体化することを目標にしています。
ACPの目的
患者が自分らしい選択をし、その意思を周囲の人々と共有することで、本人の希望に沿った医療・ケアを提供することです。
ACPの基本的な流れ
- 患者自身の価値観や希望を確認
「どのように生活したいか」「どのような医療を望むか」を話し合います。 - キーパーソンの選定
家族や親しい人の中から、患者の意思を代弁できる人(代理人)を決めます。 - 医療・ケアの具体的な内容を話し合う
延命治療や痛みのコントロールなどについて具体的に検討します。 - 継続的な見直し
病状や状況の変化に応じて、定期的に内容を見直します。
ACPのポイント
- 早い段階で話し合いを始めることが重要
- 患者の意思が変わることを前提に柔軟に対応
- 医療者だけでなく、家族や信頼できる人も積極的に参加すること
- ACPは、人生の最期の時間を安心して迎えるための「未来への準備」として、今後さらに注目される取り組みです。
ACP会議
■ACP会議で話し合う内容
・大切にしている価値観や希望
ACP会議では、まずご自身がどのような生活を送りたいのか、何が大切なのかといった価値観や希望を具体的に話し合います。例えば、「自宅で最期を迎えたい」のか、それとも「痛みを最小限に抑えたい」のかなど、具体的な希望を明確にすることが大切です。これらの情報は、医療やケアの方針を決定する上で重要な指針となります。価値観や希望を共有することは、自分らしい最期を迎えるための第一歩です。
・延命治療に関する希望
延命治療に関する希望について、ご自身の意思を明確にすることが重要です。延命治療を希望するのかどうか、またどのような状況であれば受け入れたいのかなど、具体的な状況を想定して考えましょう。心肺蘇生や人工呼吸器など、具体的な医療行為について、ご自身の考えを整理しておくことが大切です。これらの情報は、万が一の際に、ご自身の意思を尊重した医療を受けるために不可欠です。
延命治療の希望は、個人の価値観に大きく左右されます。
・信頼できる相談相手
ご自身の意思を代弁してくれる、信頼できる相談相手を決めることも重要です。家族や親族だけでなく、友人や医療関係者など、信頼できる相談相手がいることで、ご自身が安心して医療やケアを受けることができます。相談相手は、複数人いても構いません。意思決定のサポートをしてくれる存在は心強いです。
■意思決定プロセス
意思決定方法は主に3つあります。それぞれ有効な場面が違いますので、使いわけて行ってください。
- バターナリスティック・ディシジョン(父権主義的意思決定)
・意思決定の中心:主に医師やケア提供者
・患者の役割:医師やケア提供者が妥当だと考える治療法や検査などの説明を聞く
・情報提供の流れ:医師やケア提供者→患者 一方通行
※小さな子供に対する親の役割のような決定方法だと例えられる
・場面:緊急時や命に関わる状況や患者が判断能力を持たない場合など - インフォームド・ディシジョン(情報提供型意思決定)
・意思決定の中心:主に患者
・患者の役割:医師から提供された情報や、自分で収集した情報をもとに患者自身が決定する
・情報提供の流れ:医師やケア提供者→患者へ一方通行の情報提供
患者→医師やケア提供者へ、ほしい情報提供の依頼や決定したことを伝える
・場面:患者が十分な判断力を持っている場合、治療やケアの選択肢が明確な場合、患者の価値観が重要視される場合など - シェアード・ディシジョン(共有意思決定)
・意思決定の中心:患者と医師やケア提供者
・患者の役割:決定するための自分の価値基準を明確にして、医師やケア提供者の情報を理解し、対話しながら意思決定する
・情報提供の流れ:情報の流れは双方向
患者→医師やケア提供者へ、価値や好みに関する情報を提供
医師やケア提供者→患者へ、科学的根拠に基づく治療の選択肢や各選択肢の
メリット・デメリットに関する情報を提供
・場面:複雑な治療やケアの選択が必要な場合、患者が十分な判断ができ、
専門知識を補助的に必要とする場合、患者と医療者との深い関係が必要な場合など
■痛みの緩和
痛みとは身体的な痛みのみならず、全人的痛みです。ACPを通じて、何をつらいと感じているかを知ることが緩和ケアの始まりであり、ACPを繰り返すことによって今後に対する不安の緩和につながることが期待されています。
■誰が主催するか
これはとっても難しい課題ですが、介護サービスや医療サービスのまとめ役であるケアマネが主催するのが望ましいかもしれません。なかなか死について本人や家族に意向を伺うという行為が難しいかもしれませんが、このあたりも医療チームとの連携が非常に大切であると思います。
在宅緩和ケアにおける訪問看護の役割
在宅緩和ケアの患者にとって訪問看護員が一番近い存在である場合も多いです。
患者にとって医療行為そのものがニーズとして強いですので、医師の指示の元、医療行為が行える看護師が家族以外の一番の相談相手になりやすいです。
よく「寄り添う」という言い方をされる人が多いのですが、この「寄り添う」とは突き詰めて考えていくと、
自分が持つ専門領域の知識・経験・勘を持った専門家がそこにいることで、全ての痛みから患者を解放することだと考えています。
在宅緩和ケアにおいて、患者が自宅で穏やかに生活し、最期の時間を安心して過ごすように支える重要な存在となる訪問看護員の役割は多岐にわたり、こんなことを行っています。
医療ケア(処置)の提供
訪問看護員は医師の指示に基づいて、患者さんに必要な医療ケアを自宅で提供します。
症状管理:痛みや呼吸困難など、緩和ケア特有の症状を観察し、適切に対応します。
薬剤管理:痛み止めや緩和薬の投与、使用方法の指導を行います。
医療行為:点滴、カテーテルの管理、床ずれのケア、リハビリなどを行います。
患者のQOL(生活の質)の向上
訪問看護員は、患者が可能な限り快適に日常生活を送れるよう支援します。
身体を清潔に保つためのケア(入浴や清拭など)
食事や栄養管理のアドバイス
生活リズムの調整や活動支援
傾聴、コミュニケーション
家族への指導とサポート
在宅緩和ケアでは、家族がケアの一部を選ぶことが多いため、訪問看護員は家族に対しても以下のようなサポートを行います:
医療機器や薬剤の取り扱い方法の指導
症状が悪化した際の対応方法のアドバイス
精神的なサポートや不安の軽減
心理的ケア
患者だけでなく、家族にとっても在宅緩和ケアは心の負担が大きくなることがあります。患者の孤独感や不安に寄り添い、話を聞くと同等、若しくはそれ以上に家族の不安やストレスを軽減するための相談など行うことが多いです。
専門的知識、目線で相手の苦しみを理解することから始まりますが、「死」への向き合い方や死生観が心理的ケアに大きく影響を及ぼしますので、教育だけではなく、統一性も重要になってきます。
医療チームとの連携
訪問看護員は、在宅緩和ケアに関わる医師やケアマネージャー、薬剤師、訪問介護員などと緊密に連携します。患者の状態を医療チームに共有し、必要に応じてケア内容の見直しを提案します。
リハビリ
緩和ケアにおけるリハビリテーションは、一般的な「機能回復」や「運動能力の向上」を目指すリハビリとは異なり、患者の生活の質(QOL)を最大限に引き出し、「その人らしい生活」をサポートすることを目的としています。
一般的な機能回復リハビリにおいては、ADLが向上すればQOLも向上する流れとなりますが、それに対して緩和リハビリにおいては、ADL低下でもQOL向上を目指していくものになります。そんな観点からのリハビリは緩和ケアの重要な支えとなります。
緊急時の対応
患者の症状が急変した場合、訪問看護員は迅速に対応します。 適切な処置を行い、必要に応じて医師に連絡することで、患者と家族が安心して在宅生活を続けられるよう支援します。
訪問看護員は、在宅緩和ケアの「現場のエキスパート」として、患者の身体的・心理的なケアを総合的に提供します。また、患者のQOLを向上させるだけでなく、家族にとっての心強いパートナーでもあり、在宅ケアを支える大きな柱となります。 |
薬(医療用麻薬)
特にガン末期状態の緩和ケアには医療用麻薬が使われることが多いです。
痛みを開放することでQOLの向上が期待できます。
専門家ではないので、このあたりの情報は詳しく語れません。
今回は、医療用麻薬に関する信頼性の高い情報を提供している以下の5つのガイダンス・サイトをご紹介します。
■厚生労働省 医療用麻薬適正使用ガイダンス
がん痛みや慢性疼痛治療における医療用麻薬の使用と管理について詳しく解説しています。
■看護roo!
オピオイド鎮痛薬の種類や特徴、投与経路、簡易比較表などをわかりやすくまとめています。
■東邦大学医療センター
医療用麻薬の種類や使用方法、副作用について詳しく説明しています。
■諦めないがん治療
がんによる痛みを緩和する医療用麻薬の効果副作用や、適正使用について解説しています。
■国立がん研究センター東病院
医療用麻薬に関する患者からのよくある質問に対して、専門的な立場から回答しています。
最後に…
理想の看取りとは…
ターミナルに入った瞬間から死までの間と言うのは、治療方法やかかわり方、本人の心の持ちようによって短くもなるし、長くもなる場合があります。その期間が長ければ良いかと言えばそれも人それぞれだと思います。
何も好きなことができず病院で延命治療行うことを選択することもあるし、住み慣れた自宅で家族に囲まれて、抵抗せずにあるがままに最後を迎えることを選択する場合もあるし、何を持って「最高の看取り」なのかと言うと、答えが難しいですが、本人や家族の意向を尊重した時間が与えられるとそれが最良の選択なのだと思います。
在宅緩和ケアが単なる医療行為ではなく、家族の心を結び付ける時間を提供するものであるとともに、患者自身が望む場所で、自分らしく人生の最期を迎えるための有力な選択肢の一つです。
在宅緩和ケアでは、専門的知識、目線で相手の苦しみを理解することから始まります。まず医療やケアを提供する側が”死”をあたりまえのこととして受け入れること。そして死生観を持つことが重要であるとともに、ステーションとして1本の軸を持つことがブレのないケア提供に必須かと思います。
よく使われる言葉があります。
Not doing but being
何かをするのではなく、そこにいるという意味で、
「何もすることができなくとも側に寄り添え」「治療や処置といった何かをすることよりも、側にいてケアすること寄り添うことが大切ですよ」という意味で、緩和ケアのあり方を示しています。
今回は緩和ケアということでガン末期の方を対象にした看取りの在り方を語りましたが、医療依存度の高い高齢者や重度な認知症の方の最期、同じように当てはまると思います。
本当に望むことはなかなか患者本人も認識できていないことが多いです。我々はそれを少し時間をかけて引き出していく専門職であるという認識が持てたらまた日々のコミュニケーションも変わってくるのではないでしょうか。
人生会議を大きなものとして捉えすぎずに、日々のコミュニケーションに少しその観点を含めていくことから始めていきましょう。